魔性の仔Last-11
「男しか生まれないのなら、どうやって繁殖できるんだ?」
「だからこそ、我らは人間を必要とするのだ…」
「つまり、おまえたち男は人間との“あいの子”なのか…」
「その通りだ」
うなずく鵺尊に対し、刈谷は小さく首を振る。
「それは不可能だ。遺伝子の異なるモノ同士が、結合するなんてあり得ない」
「不可能ではない。現に自然界では、ごく稀に起こり得たことなのだ」
「…おまえ達は、わずかな偶然で生まれた個体種をずっと維持してきたと云うのか?」
鵺尊は再び、ゆっくりと頷いた。
「我ら男には子を成す能力はない。我らはただ、あの方の忠実なる下僕として純血を護っているのだ」
その形態は人間とは異なる。強いて挙げれば昆虫、女王蜂に従える働き蜂のような体系に酷似していた。
「刈谷よ。自らの体験で“種の保存”がどのようなモノか味わうがよい…」
鵺尊はそう云うと腕を振りあげた。
次の瞬間、反対側の入口に明かるくなった。神が現れる地の底から続くように、洞窟が祭式場へと登っていた。
そこから鈴や鐘の音に混じり、奇妙な節まわしの呪文めいた歌が聞こえてきた。
祝詞や経文の読み上げとは異なる異質なリズムが、徐々に近づいて来る。
そして、最初に姿を現したのは村の地域を束ねる6人の長達。そして、若い衆達が担ぐ輿に乗って真弥が現れた。
「真弥ッ!」
刈谷の声に真弥は反応をみせない。ただ、伏し目がちに俯いている。身につけた白い衣装や頭や首、腕を彩る装飾品は、どこか中近東あたりの民族衣装を思わせた。
輿が降ろされた。真弥がゆっくりとした足取りで鵺尊の前に立つと、すべての従者が片ひざを着いた。
「…祭式を執り行います」
鵺尊の言葉に真弥は頷いた。
「わたしは待っていた。この日が訪れるのを…」
そう云うと、身につけた衣装と髪飾りをとって鵺尊に渡した。
華奢な体躯に緋色の長い髪、それに装飾が彩りを際立たせる。
寺院の方からは、村人による呪文の合唱が始まった。刈谷の耳には、東南アジアの宗教音楽に似たリズムを思わせた。
「では、こちらへ…」
言葉に従い、真弥は早紀の前に跪く。両手を縛られ、杭に吊るされた早紀は、頭を垂れていた。
「“甦りの儀”を行います」
鵺尊は馬遥遷から太刀を受け取り、本身を抜いた。
「止めろ…」
むなしく響く刈谷の声。太刀は頭上高くに振り上げられると、一気に振り降ろされた。
「止めろオオォォーーーッ!」
首が跳んだ。早紀の身体は一瞬、ビクッと動いたが、それきり動かなくなった。
鮮血がシャワーの如く吹き出し、真弥の身体を叩いた。