魔性の仔Last-10
「騒ぐでない。彼女らは貢物として必要なのじゃ」
「じ、自分達の純血を保つために関係ない者を殺すなんて、貴様らは狂ってるッ!」
「連綿と続いてきた村のために、わずかな犠牲になってもらっただけじゃぞ。自ら命を絶つ者が大勢いる時世に、年に2、3人が居なくなって何が変わるのだ?」
馬遥遷は蔑むような目で刈谷を見て笑った。
「人の犠牲の上に成り立つ平静など、欺瞞に満ちたクズのやることだッ!」
燃えるような目で馬遥遷を睨み、猛り怒る刈谷。
白熱する交わりの中で、ひときわ冷静な声音が加わった。
「我らは、この方法でのみ生き延びてきた。それほどに脆弱な存在だ」
鵺尊の声だった。
「…人を殺しておいて、脆弱な存在だと?」
刈谷の視線が鵺尊に移る。その顔は憂いを帯びていた。
「左様。おまえからすれば、人殺しを繰り返す我らは凶物のように映るだろう。
しかしな、我らは人との関わりを持っても100人足らずにしかならん。まして関わりを絶てば、すぐに消え去る運命なのだ…」
「…関わりを絶てば…消え去るだと。それを防ぐために、真弥のような幼い子供を幽閉するのかッ!」
次の瞬間、鵺尊と馬遥遷は声をあげて笑った。
「何がおかしいんだッ!」
「…いや…こいつはすまぬ。おまえが、あまりに突拍子も無いことを云うもので、つい、おかしくなってな」
「突拍子も無い?」
刈谷の問いかけに、鵺尊は大きく頷いた。
「あの方が生まれたのは江戸の後期。180歳は超えておられる」
「な、なんだとッ!」
信じられない思いが心に広がった。が、鵺尊は刈谷の気持ちを否定するが如くに言葉を続ける。
「ついでに云えば、私も馬遥遷様も、あの方から産まれたのだ…」
刈谷は言葉を失った。
「さらには、村人全員もな。“おまえ達の言葉”で云えば、我らは兄弟なのだ」
明かされた真実の異常さ。
「…信じられん…」
「だから申したであろう。おまえ達の狭い了見では真実は見えぬと…」
少女の姿をした180歳あまりの女。村人すべてが彼女の子供であること。
(だからこそ、こいつらは真弥を必要とするのか…)
その時、刈谷の中に疑問が生まれた。
「じゃあ、真弥以外の女性はどうなるんだ?」
投げ掛けられた疑問に、鵺尊は皮肉混じりに答えた。
「今、申したであろう。村人すべて兄弟だとな」
「な、なに…すると」
それは、産まれて来るのは男だけと云うことを意味する。