ハロウィン-1
「今年ももう終わりかぁ」
すっかり薄っぺらくなった日めくりカレンダーを見てふっとため息をついた。
「まだまだ、あと二ヶ月もあるわよ」
「二ヶ月しかないじゃん」
「二ヶ月も、よ。でもそろそろ新しい日めくり買わなきゃね」
「普通のカレンダーでいいんじゃない?」
「さてと、」
俺の意見を綺麗にスルーして、つむぎは愛用のエコバックから重そうな塊を取り出した。
「なーんだ?」
なーんだって…、見りゃ分かるよ。
「カボチャだね」
「カボチャよ」
「一応聞くけど、何で?」
「ハロウィンだから」
「やっぱり?」
ははは、と乾いた笑いを浮かべてイスに座った。
目の前にはカボチャが丸々一個、デンと鎮座している。
ハロウィンだからカボチャを買って来た。うん、分かるよ。でもね、
「俺達二人で食べるにはちょっとデカくないか?」
「大丈夫よ。とりあえず半分くらい煮ちゃえば」
煮カボチャか…
それじゃハロウィンじゃなくて冬至になってしまう。
ハロウィンのカボチャって、中身くりぬいて目鼻口が独特な形にあいてて…
とにかく、煮るイメージではない。
「なぁ、つむぎ」
「何?」
「ハロウィンってなんだ?」
「…さぁ」
「お前知らないでカボチャ買って来たの?」
「じゃあ慎吾君は知ってるの?」
「知らねえよ」
「なら深い事は気にしないでカボチャ食べたら?」
デカい握りこぶしみたいなゴツゴツを食えと言われてもね。
せめて洋風に変身させてくれよな。パンプキンプリンとかパンプキンパイとか。
ていうか、パンプキンとか言ってる俺の頭のがよっぽどハロウィン寄りじゃねぇ?
さっきからこいつはカボチャカボチャって、雰囲気ぶち壊しじゃん。
まぁ、壊されるほどの雰囲気もないけど。
何の気なしに目の前のパンプキンをツンツンつついていると、つむぎがそれを横から奪って言った。
「乞うご期待」
ニコニコしながら鼻歌交じりでキッチンに立つ後ろ姿をぼんやり眺めた。
――慣れたな、この光景。
付き合って何年も経つと、初めの頃は新鮮だった行動の一つ一つがただの日常風景に成り下がる。
どのカップルも例外無くそうなると思っていたのに、この女…、つむぎは違う。
つむぎはありとあらゆる出来事を記憶し祝いたがる記念日女。俺の部屋に掛けられている365日の日めくりカレンダーにはご丁寧にその全てが書き込んである。
最近では毎日何かしらのお祝いをしている気がする。
もちろん俺はいちいち覚えてないし、そのせいで喧嘩の絶えない日々だけど、救いはつむぎが金品を要求してこない事と切替えが早くてすぐに仲直りできる事。
それから、退屈だと思わない事か…。
めんどくさいとは思うけどね。