月夜にあなたを想うこと-1
彼を思い浮かべるとき、いつも連想するのは、フルムーン。
―満月だ。
というのも、彼は満月の夜、必ず我が家を訪れる。
私と、私の両親と夕食を共にした後、私の部屋で月を愛でる。
彼は、この地球の衛星が殊に好きなのだ。
3年前、彼が6ヶ月のローンを組んで購入した天体望遠鏡。
しかし、14歳の誕生日にそれをねだると、彼はあっさり私に譲った。
以来、私の部屋には不釣り合いな、立派で大きい望遠鏡がある。
「あ。雅成くん、白髪」
熱心に望遠鏡を覗き込む、彼の横顔を眺めながら、私は言う。
「うそっ。どこ?」
「んー。右耳の上らへん?何本か」
「げ。一本じゃないの?」
「うん。抜く?」
私が手を伸ばすと、雅成くんは慌てた。
「わっ。待って。…最近、髪の量減って気がするからやめてー」
「…おっさんすね」
「おっさんすよ」
雅成くんは、月から私に視線を移して、ふ。と笑う。
つられて私もふふふ。と笑った。
晩秋の夜は流石に冷えるけど、満月の夜はやっぱり明るい。
雅成くんは、久しぶりの逢世に飽きもせず再び、月を眺める。
「…今日は、ちょっと黄色い気がするなあ」
月に夢中の隣の男に、私はちっと舌打ちをする。
―心の中で。
こっち向きやがれ。
全く。
私というものがありながら。
と思いつつ、私も空を仰いで裸眼で眺める月は白玉団子のように滑らかで、真ん丸だ。
しげしげと眺めていると、うっすらと煙のにおいがする。
やっと、月から目を離した彼が、ごく僅かなニコチンしか含んでいない煙草をくゆらせながら(吸わなきゃいいのに)、私をみていた。
まるで、父親が娘をみるように。
実際、そうなんだろうなと思う。
私は、物心ついた時からこの月狂いの男が好きだというのに。