月夜にあなたを想うこと-2
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彼、苑上雅成(いつ聞いても、平安貴族のようだ)は、父の教え子だ。
同じ附属の中学に通う雅成くんの家庭教師を、父が務めていた。
年は離れていたが、何かと馬が合ったようで、長い付き合いになっている。
ネロ帝のように、暴君の両親は、私が生まれると、大学生は暇だろうと決めつけ、ことあるごとに雅成くんを子守りに呼びつけた。
半分は雅成くんに育ててもらったと、私は思っている。
事実、雅成くんは運動会にも合唱コンクールも、果ては授業参観にも来てくれた。
そろそろ中年と呼ばれる年代へ突入する隣の男は、アーガイルのセーターにパーカー、いつも履いているジーンズとカジュアルで、贔屓目に見なくても、若い。
…と思う。
男性に限らず、独身の人は、歳を重ねても若くみえるのは何故だろう。
所帯染みず、生活感が希薄なのか。
きっと「お父さん」や「お母さん」のにおいがしないからなのだろう。
いつだったか。
随分昔だったように思うが、一度彼に聞いてみたことがある。
「雅成くんは、結婚しないの?」
彼は、少し間をおいて、
そうだね。
…いつかは。
そうごく小さく呟き、俯いてはにかむように少し笑った。
私は、その彼の様子をみた瞬間、この人の大事な人になりたいと思った。
友達のこどもとしてではなく、娘としてでもなく。
単なる異性として。
好かれたいと切実に思った。