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お江戸のお色気話
【その他 官能小説】

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お江戸のお色気話、その1-1

(1)


昔、江戸の下町には裏長屋と言う生活の場があった。

裏長屋とは、表通りから路地を入った裏側にあり、
小さな家が何軒もつらなり
比較的貧しい人達が、間口が九尺、奥行きが二間という狭い中で
生活をしていた。

こんな裏長屋でも借りるにあたっては、
大家の身元調べがうるさかったようだが、大家は家の持ち主ではなく
管理を任された代理人である、

この裏長屋の店賃(家賃)はその頃
三百文が相場だった。

そこでは
「熊さん、八っさん」と言うように、
落語の世界に出てくるような平凡的な人達が住んでいた。

その広さは三坪(およそ六畳)程の小さな狭い家が多かったようだ。
江戸の町人のほとんどが、こうした長屋に住んでいたのである。

あまり小綺麗でないこの長屋には様々な人が住んでいたが、
これからお話しするその長屋の住人達は、それぞれに個性というか、
一癖ありそうな人が少なくなかった。


その長屋には、左官屋や魚屋、金魚売り、
金貸しの取り立て屋、
更に、売れない浮世絵師などがいた。


またそこでは、素性の知れない浪人者が住み、
収入の為に傘張りをしたり、寺子屋で教えていたが、
前は事情があるのだろうか、どこぞの武家の出のようだった。


その他に珍しいのはどこか気品があるが、
落ちぶれて今は身をやつした粗末な身なりの母娘も
その長屋の下でひっそりと生活していた。

その長屋の住人達は、
そんな人物がどういうものかお互いに興味を持ち、
井戸端会議では、女達がヒソヒソと噂をしたりして、
それが楽しみの一つでもあった。


そういう下世話な話し好きは、
時代が変わっても今日と相変わらず同じである。


さて、その長屋では、
今は独り者の長老という話し好きな男がいて、
皆から人望があった。


やはり長老と言うだけあって何事にも詳しく、
何かと言えば若い者などは
その男の部屋を訪れては、相談事を聞いて貰ったり、
くだらないおしゃべりをして、その日の暇つぶしを常としていた。


親戚で不幸があったとき等には、
出来るだけ金を出さないで済ます方法がないか、とか、
女を孕ましてしまったが、上手く切り抜ける方法はあるか等、
聞けばくだらないような様々なことをその老人に相談に行き、
その意見を聞いたりしていた。


そんな場合でも、いつも老人は適切な教えを説いていた。
そんなところに、この老人の人気があるのかもしれない。


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