みなみの反乱-5
そんなある日、彼は病院の非常階段から身を投げ、自ら命を絶ってしまった―――と言うのだ。
残されたみなみの、本当の苦しみはそこから始まった。
突然、将来を誓い合った男性が自分を1人を残し、目の前からいなくなってしまった。
事実を聞かされても、すぐに受け入れることなど出来ない。
自殺直後、遺体の損傷が激しく、みなみのショックが大きいだろうから…との理由で、みなみは彼の亡骸にも、立ち合わせては貰えなかった。
あとあと、そのことが尾を引き、その後も彼の死を受け入れることが出来ないまま、みなみは1人精神を病んでいったという。
何度か自殺未遂を繰り返し、長期間療養施設に入院していた時期もあった。
しかし除々に回復の兆しが見られた為、みなみの父親とうちの校長が知り合いだったこともあり、この春からうちの学校で仕事復帰を果たしたそうだ。
みなみは赴任以来、そんな過去の事情や暗さは一切感じさせず、普通の人以上の頑張りを見せていた。
「本当はね…頑張れば頑張るほど、虚しいの…」
みなみはそう言った。
「愛されれば愛される程、せつないし…」
―――とも。
今でも生きていくことに、さほどの意味を見いだせていないと言う。
「死ぬことで逃げよう…とか、そういうつもりはないのよ。ただね…フッと誘われる瞬間があって、そうなるともうダメなのよ…」
俺には分からない気持ちだったが、みなみの感情を押し殺すような癖は、何度か気になったことがある。
しかし、それは俺にだって往々にしてある部分で、みなみが特別だとは思わなかった。