やっぱすっきゃねん!VK-1
8月を迎えた。
青葉中は準々決勝で実力を二分する東邦中に快勝すると、その勢いに乗って準決勝、決勝も危なげなく勝ち進み、地区大会で優勝を飾った。
特に準決勝。対戦相手の精華中に対しては、前日の遺恨めいた出来事が選手逹を奮起させる材料となり、15‐1という大差でコールド勝ちという結果となった。
中でも先発の直也は、“絶対に打たせない”と意気まいて試合に臨み、5回を無失点、8奪三振に抑え、打っては3安打、5打点の活躍を見せた。
大会で対戦を重ねる毎に、選手逹の結束は強く、固くなって、さらなる飛躍を期待させるほどになった。
次は5日後から始まる県大会。出場32校の中で、勝ち残った1校のみが全国大会に進める。
目標が現実見をおびてきた。選手逹の大会に賭ける意気込みは一層、大きなモノとなりつつあった。
そんな中、
「どうしたんだ?浮かない顔して」
学校主宰の簡単な祝賀会の帰り、校門へと続く道で直也が訊いた。
「優勝したのに嬉しくないのかよ?」
「そ、そんなことッ」
佳代は両手を大きく振って全否定する。
「じゃあ、何でそんな顔してんだ?」
「…何だか、大会に出してもらったけど、何にも役に立てなかったなあって…」
そう云うと、ただ俯いた。
そんな悲観的な様子に、直也は異を唱える。
「そんなに難しく考えるな。使ってもらって勝ってるんだから良しとしとけ」
「…うん」
ポジティブなアドバイスを送られるが、納得した顔じゃない。
直也にすれば、勝敗への影響が少ない場面でたくさん投げさせ、復調のきっかけを掴んでもらいたい思いから、監督の永井がピッチャーに専念させているのだと考えていた。
だが、そんなことを佳代は思っていない。ただ、自分のいたらなさが歯がゆかった。
「じゃあ…」
校門の先の道。佳代は自転車に跨がった。
「明日はオフ日だ。ゆっくり休んで切り替えろよ」
「うん…」
直也に力無い声で返事をすると帰って行った。
(大丈夫か?アイツ…)
去って行く後ろ姿を、直也はしばらく見つめていた。