やっぱすっきゃねん!VK-5
「所詮、地区の優勝です。ここから先…特に準々決勝あたりからは、実力だけでない、運も味方にしないと勝てない。
だからこそ、指揮官が今まで以上に厳しく選手のプレイを見つめてやらないと」
一哉の言葉を聞いて、葛城は恥かしくなった。今回の優勝で、おそらく永井も自分も安心していた。
そのことをズバリと指摘されたのだ。
「分かりましたッ、明後日からの4日間、あの子逹が悔いを残さないよう頑張りますッ」
「その意気ですよ」
一哉が微笑みかける。
2人は再び歩き出した。飲み屋街から外れた場所でタクシーを拾うと、別の場所へと向かった。
優勝から一夜明けた朝、佳代はずいぶん早くに目が覚めた。カーテン越しに見える窓の外は、ようやく明るくなりだしたくらいだ。
「…まだ、こんな時刻…」
寝ぼけ眼で目覚まし時計を確かめた佳代は、ひとつため息を吐くと、ブランケットを頭まで被って2度寝を試みる。
しかし、寝返りを繰り返すだけで、再び眠ることは出来なかった。
「…やめた」
結局、諦めたてベッドから這い出ると、軽く伸びをしてから階下へと降りていった。
「…ふ、ンン…」
冷蔵庫から麦茶を取りだし、ダイニングテーブルに置いたが、彼女はイスに腰かけて頬杖えをついたきり動かない。まだ、頭は覚めていないのだろう。
「ふぅ…う…」
アクビと共に、覚めだした頭に浮かんだのは昨夜の苦い記憶だった。
「姉ちゃん、ダメだよ。今日も1点取られたじゃん」
それは夕食時、弟の修が発した言葉から始まった。
「修ッ、そんなに云わないの。佳代だって精一杯やってんだから」
母親の加奈に咎められると、いつもなら引き下がる修なのだが、この日は違った。
「母さんは姉ちゃんの、“本気”で投げたところを知らないからそんなこと云うのさッ」
えらい剣幕で加奈に喰ってかかったのだ。
佳代には、そのひと言が気になった。
「わたし、本気で投げてないように見えた?」
弟に対してポツリと云った。
「アンタ逹から見て、そう見えた?」
まっすぐに弟を見る目は悲しみも怒りもない、ただ、問いかけるようだ。
その目に誘われたのか、修は俯き加減で口を開いた。
「…云い方が悪かったのなら謝るよ。でも、大会前のバッティング練習で、まともに打てるヤツがいなかったじゃん」
喋りだした修は、気持ちの抑えが利かなくなった。