やっぱすっきゃねん!VK-4
「私の役目は大会前で終わっています。今回、優勝出来たのは選手逹の力はもちろんだが、その力をキチンと采配した貴女や永井さんの頑張りですよ」
「そんなッ!本当に私なんて、永井さんの指揮を見てただけで」
「佳代にマニキュア渡されたんでしょう。そんなこと、我々じゃ思いつきませんよ」
「なんでそんなことまで…?」
「佳代が云ってました。アイツ“葛城コーチが私のことを心配してくれてる”って喜んでましたよ」
「まあ、本当に…」
葛城の顔に、これ以上ないというくらいに慈愛の笑みが浮かんだ。
「永井さんだってそう思ってます。貴女がバッテリーのことを見てくれるから、安心して試合に集中出来るとね」
一哉がそこまで話した時、永井の方から何のリアクションもない。不思議に思い、そちら側を覗いてみると、カウンターにつっ伏しているではないか。
「ち、ちょっとッ、永井さん」
葛城が、永井の肩を揺すろうとするが、すぐに一哉の手がそれを制した。
「それよりも、彼の住所はご存知ですか?」
「え、ええ…」
「彼は私が送り届けますから、心配いりませんよ」
そう話しているうちに、永井はムクリと身体を起こした。
「…ああ、また寝てしまったのか」
「永井さん、疲れてるんですよ。明日は休みだからゆっくり休んで下さい」
一哉と葛城が席を立とうとするのを永井は止めた。
「まだ8時半じゃないですか。飲んでって下さい、私だけ帰りますから」
フラフラと立ち上がろうとする永井を、葛城が止めた。
「帰るって、学校の駐車場にクルマ置いたままでしょう」
「運転代行を頼みますから、大丈夫ですよ」
そう云うと、店を出ていった。残された2人は、しばし、永井の消えた方向を見つめていたが、
「…じゃあ、永井さんの言葉に甘えて場所を替えますか?」
「えっ?」
葛城は、一哉の申し出に少し驚いていた。
「イヤですか?」
「そういう訳じゃ…」
「じゃ行きましょう」
2人は店を出た。外は心地よい夜風が吹いていた。
葛城は一哉の背中を見て歩いていた。
「葛城さん…」
一哉は後ろを振り返った。
「優勝してどうでした?」
唐突の問いかけ。葛城は、何故こんな質問をと戸惑う。
「…そりゃもちろん、嬉しかったです」
「なるほど。でもね、それは今日限りにして下さい」
「仰有っている意味が分かりません」
なんだか卑下されたようで、葛城は語気を強めた。