やっぱすっきゃねん!VK-21
翌朝
ユニフォームに着替えた佳代。その表情は笑みがあふれている。
「行ってきますッ!」
必要な荷物を抱えると、声を弾ませて玄関を出て行った。
いつもより早い時刻に学校に到着した佳代は、その足で部室へと向かった。
「おはようッ!」
開け放たれたドア。その向こうには、着替え中の男子部員が存在に驚きの声をあげた。
「さ、澤田さんッ!」
川畑や和田など下級生は恥ずかしさに背中を向けた。が、佳代は気にした様子もない。
「あ、大丈夫。そんなの修で見慣れてるから」
そう云うと、3年生が陣取る奥のロッカーにズカズカと入って来た。
「何しに来たんだッ。こんな早くに?」
直也が前を塞いだ。
すると佳代は、一転、かしこまった態度で頭を下げた。
「昨日は、すいませんでしたッ!」
沈黙が部室内を支配した。
修を除いた1、2年生には意味が分からない。しかし、3年生逹全員が笑みを浮かべている。
「橋本さん、な、何かあったんですか?」
上級生の不可解な態度に、疑問を持ったのは2年生の中里だ。
「何でもねえよ。気にするな」
橋本は安堵の笑みでそう云った。
「青中ゥーッ、ファイトオーッ、ファイトオーッ、ファイトオーッ!」
4日後に県大会を控えた練習。アップのランニングで、佳代の掛け声が一層映える。弾む声にハツラツとした表情。それを見た仲間は、つられて身体が跳ね動く。
弟や同級生だけでない。永井に葛城、部員すべて、地区大会での彼女を知る誰もが、“変わった”と感じた。
そしてアップが済んでポジション別の練習に移る時、佳代は永井の元へと駆けた。
彼女は、昨日昼間に思い浮かんだことを実行にうつそうとした。
「監督ッ!お願いがあります」
深々と頭を下げる佳代に、永井は戸惑う。
「どうしたんだ?急に改まって」
頭を下げたまま彼女は云った。
「今までの、投げ込みを自分なりにやらせて下さいッ」
永井は躊躇った。彼女はこれまで、一哉の指導に絶対的な信頼をよせていた。それを、捨て去ろうというのだ。
彼にはそのあたりが気になった。
「おまえのトレーニング・メニューは、藤野コーチが考えてくれたものだ。それを棄てると云うのか?」
厳しい意見。だが、佳代は真剣な顔で永井に云った。