やっぱすっきゃねん!VK-20
「どうしたんだ佳代?こんな場所まで」
いつもの、柔らかい表情と口調を投げ掛けると、佳代は恥ずかしそうな顔で答える。
「…朝早く目が覚めちゃってね。つい、西に行ってみようって…」
「それで終点の海に出た?」
「そう。防波堤から夕日を眺めて帰ろうとしたんだけど、足が痛くて…」
「そうか…」
娘の生き々とした表情に、健司は目を細めた。
だが、
「冗談じゃないわよッ。心配して来たのに何よッ、損したわ」
加奈は健司の手を振りほどくと、さっさとクルマに乗ってしまった。
気まずい雰囲気が辺りに残された。
「…わたし、そんなに悪いことしたのかなあ?」
「まあ、確かに褒められたことじゃないな」
「そっか…」
俯く佳代。
「でも、何か得るモノはあったんだろう?」
「うん。いちいち落ち込んでちゃダメだって分かった」
健司は頷いた。
「それなら大丈夫だ。さあ、帰ろう」
「うん」
2人は加奈が待つクルマに乗り込んだ。
「母さん。勝手しちゃって、ごめんなさい」
後部座席に乗った佳代は、助手席の加奈に頭を下げた。
加奈はしばらく黙っていたが、やがて諦めたように深く息を吐くと、
「私よりも、修の方がうるさいからね。あの子、アンタのこと捜してたみたいよ」
「修が…?」
「そうよ。朝早くから“姉ちゃんが居なくなった”って大変だったんだから」
ひとくさり文句を云って、表情を緩ませる。
「あの子は“姉ちゃんっ子”だからね。せいぜい覚悟なさい」
「修の説教か…やだなあ」
その途端、車内に笑い声が上がった。
「…こんなムチャ、2度としないでよ」
「分かったよ。次からは自分で帰って来るから」
「全然わかってないじゃないッ」
「それより母さん聞いてよ。今日のお昼をね、友達の両親がやってある洋食屋さんで食べたの」
「へえ、それって誰?」
「秋川ってね、チームメイトなの。そこのオムライスが美味しくって。ねえ、今度、皆んなで行こうよッ」
向かう途中とは対象的な、騒がしほどの車内がいつまでも続いていた。