やっぱすっきゃねん!VK-19
「…自分の存在理由を確かめるためさ」
「意味わかんないわ」
健司は続ける。
「人が突飛な行動を取るのは、それなりに理由があるのさ。例えば、周りの関心が自分に向くようにとか。
学生時代とか居ただろう?目立ちたがりなヤツなんか」
「そうね。特に男子に多かったわ。先生のマネしたりして…」
加奈は、昔を思い出して頷いてみせる。
「他にも、自らの肉体に苦痛を与えることにより、“生きている証”を確認したりする場合もね。ただ、これは自傷行為と似てるんだ」
「じ、自傷行為ですって…」
加奈の声音が不安に変わった。
「もっとも、本からの受け売りだから一概に真実とは云い難いけどね。佳代のことだから、本当にただ、歩きたかっただけなのかも知れない」
「い、いい加減にしなさいよッ!」
怒りに任せた加奈の平手が、健司の左頬にヒットした。
クルマは一瞬、蛇行する。
「ととッ…危ないなあ…」
「アナタが、おかしな事云うからでしょッ!的外れな推測するから」
「悪かったよ」
案外的外れでもなかった。学生時代、心理学を専攻した健司がそう云わせたのだ。
一悶着の後、やがて道は海岸線に差し掛かる。
「防波堤はと…」
クルマは右に折れた。道路灯に照らされた先には、沖へと伸びる白い腕のようにコンクリートの建造物が見える。
健司は横目でチラリと加奈を見た。
「いいかい、あんまり怒っちゃダメだよ」
加奈は“冗談だろう”とでも云いたげな顔だ。
「ひっぱたいてやりたいくらいなのよ」
「頼むよ。ボクが話をするから」
「……」
「なあ、加奈」
「分かったわよ」
加奈は、諦めたように深く息を吐いた。
やがて防波堤の袂にクルマは到着した。健司は2度クラクションを鳴らすとクルマを出た。
「佳代ォーーッ。迎えに来たぞォーッ」
「佳代ォッ!出てらっしゃいッ」
2人は防波堤に向かって娘を呼んだ。白い渡りは次第に暗闇に包まれ、先はよく見えなかった。
波音に混じり、足音が聞こえた。最初に加奈が、次に健司が音に気づいた。
「ごめん、ごめん…」
渡りに浮かび上がった白いパーカー。それと同時に、聞きなれた声が2人に聞こえた。
「佳代ォッ!」
前に飛び出した加奈。
「ありゃ、母さんも迎えに来てくれたの?」
コンクリートの階段を降り、目の前に立った佳代は意外という目で加奈を見た。
あまりに拍子抜けな態度に、加奈の中で再び怒りが振り返す。
だが、健司の手がそれを止めた。彼は、いつの間にか加奈の肩を抱いていたのだ。