やっぱすっきゃねん!VK-13
「わたし、チームメイトの澤田と云います」
「こちらこそ。進がお世話になってます」
「コイツはな、オレよかずっと上手いんだぜ。セットアップァーって、重要な役割を担ってんだ」
自慢気に話す息子を見て、母親はつい、意地悪を云いたくなった。
「だったらさ、アンタも負けないように練習してレギュラー奪らなきゃ」
その言葉に秋川は過敏に反応する。
「うるさいなッ!オレなりにやってんだよ」
「はいはい…」
母親は店内へ戻っていった。秋川は気を取り直すと、
「さあ、食べようッ」
自らスプーンを取って食べだした。それを見て佳代逹もオムライスを口へと運んだ。
「すっごい美味しいッ!」
感激の第1声。
ふわふわの玉子と、かかったデミグラスの甘さ、チキンライスの酸味と炒め具合が絶妙だ。
「わたしもオムライス作るけど、こりゃ別格だッ」
そう言葉を発したきり、佳代は黙ってスプーンを口に運びだした。まるで貪るように。
秋川も加賀も、まるで珍しい生き物でも見るような目で、その姿を見つめている。
そして、その動きが止んだのは、わずか5分後のことだった。
「…おまえ、もう食ったのか?」
呆れ顔の2人。対して佳代は、はにかむように照れ笑いを浮かべる。
「朝早くにパンしか食べてなくて…それに、オムライスがとっても美味しかったから」
「それにしても、男のオレ逹よか早いぜ」
「藤野コーチに云われてたから、それが身に付いてるのよ」
「藤野コーチに?」
2人の問いかけに、佳代は頷くと視線を遠くに向けた。
「ジュニアチームに入った時、わたし、背もちっちゃくて痩せっぽちで…全然、体力もなくて練習について行けなかったの。
その時、藤野コーチが云ってくれたの。“たくさん食べろ”って。その日の夜からごはんの量を増やしたの。そしたら、1年経つぐらいから練習にもついて行けるようになってね…」
語る佳代の目は嬉しそうに笑っている。
「あんな人にジュニアの頃から教えてもらってたのか…」
秋川が羨ましげに呟いた。
「それよりさ、さっき自主練って云ってたじゃない?」
「ああ」
「なんで休みなのに?」
2人の顔を覗き込む佳代。秋川は加賀に目配せすると小さく頷いた。
「もう1度、レギュラー奪いたいからさ」
秋川はそう云うと、ひとつ、深呼吸した。
「春先までレギュラーだったショートは森尾に取られちまった。今じゃベンチ入りメンバーに名を列ねているが、出る機会は守備要員や代打に代走。
県大会で使ってもらえる保証なんかどこにもない」
「だからって、休みの日まで…」
心配そうな佳代を秋川が遮った。