やっぱすっきゃねん!VK-11
「いらっしゃいませッ!お客様、何名様でしょうか?」
にこやかな営業スマイルとともに、マニュアル通りの問いかけをするウェイトレスが現れた。
「…あの、いえ、すいません」
佳代は慌てて店を出た。あんな場所に、汗だくの自分が居るのは不自然だと思えたからだ。
それから、しばらく歩き続けた。途中で、ラーメンや牛丼、焼肉などの店があったのだが彼女は入ろうとしなかった。
「何やってんだろ…」
虚ろな目の佳代。朝の間に感じていた高揚する思いはもはやない。いつしか俯き加減で歩いていた。
そんな彼女の姿を見つめる者逹があった。
「なあ、彼処にいるの佳代じゃないか?」
「どれが?」
訊かれたひとりが指差した。
ショートスリーブのパーカー、ひざ丈のジーンズ姿。オレンジの帽子から見える日焼けした顔は、間違えようがない。
「カヨーーッ!何処に行くんだァーッ!」
ひとりが大声で呼んだ。
(えっ?)
佳代は顔を上げて辺りを見回した。が、周りには誰も居ない。
(確かに、名前を呼ばれたけど…)
「カヨーッ!こっちだ」
再び聞こえた声の方に視線を向けると、道路向こうで自転車に跨がる秋川と加賀が手を振っていた。
佳代は先の信号を渡って2人の前に立った。
「何してんだ?炎天下に」
「…アンタ逹こそ。何してんの?」
佳代は秋川の問いかけに答えずに、逆に訊き返す。
「何って、練習してたんだ」
「練習って…今日は休みでしょ?」
「だから自主練さ」
「自主練って?」
「それはいいよ。とにかく加賀と自主練して、今からメシ食いに行くんだ」
(こんな処で会うなんて…それに自主練って…)
佳代の中に、後ろめたさが浮かんだ。
「ところで、おまえ昼メシは?」
「ううん、さっき入ろうと思ったんだけど、これじゃあね…」
汗で濡れた格好を気にする佳代を、秋川は笑いとばすと、
「だったら一緒に行かないか?すぐそこに、オレの父ちゃんの店があるんだ」
「エッ、アンタん家って食堂やってんの?」
「ああ、両親でやってるんだ」
半ば強引ともとれる誘い。
「オレも何度か食ったけど、コイツの親父さんの料理は美味いぞッ」
加賀も話に割って入る。
「ホラッ、後ろに乗れよ」
「…う、うん」
秋川に促され、佳代は自転車の荷台に乗った。
「すぐだからな」
やがて自転車はゆっくりと発進し、加賀も後ろから続いた。
かくして、佳代は秋川の両親が営む食堂へ向かうこととなった。