浦島太郎-1
マンホールに落ちた事はわかっている。
いや、考えてみれば、あれはマンホールではなかったのかもしれないが。
酔っ払っていた訳ではないし、よそ見をしていた訳でもないのに、いつの間にか落ちていたのだ。
『落ちている』という感覚はなかった。本当に『いつの間にか』そこにいた。
ネオン輝く繁華街を歩いていたのに、気付けば辺りは一寸先もわからない程の真っ暗闇。
上を見れば、円形の光が降り注ぐ。
そこで落ちた事に気が付いた。
男は茫然と立ち尽くしていた。
左右上下見渡してみたが、やはり見えるのは頭上からの光のみ。
何もわからぬままに前へと進んでみる。
カツ、カツと男の靴音だけが耳に響く。
脂汗が背筋を流れて下半身へと抜けていった。
どのくらい歩いただろうか。
ふと前方に、ほのかな明かりが揺らいでいるのが見て取れた。
明かりに向かって男の足は早まる。
息を切らして辿り着いた男の目に、異様な光景が広がった。
明かりだと思ったそれは、人間だった。
全裸で交わる人間たちが、辺り一面に点在している。
明かりの類は一切ない。
にも拘らず、真っ暗闇のこの中で、人間だけは浮かび上がったようにはっきりと確認できる。
ゴクリと、男は生唾を飲み込んだ。