浦島太郎-6
…まさか。
男はわざと人にぶつかってみた。
結果はさっきと同じだった。
男の疑問は確信に変わった。
見えていない。
こいつらに自分は見えていないのだ。
つまり、存在していないも同じ。
自然と男の口角がいやらしく吊り上がった。
繁華街から人通りの少ない路地に移動した男は、通りかかった一人の女の腕をがしりと掴み、そのまま砲丸投げのように遠心力で女を塀に激突させた。
何が起こったのか理解出来ていない女に追い打ちを掛けるように、男の踵が女の肩へと落下する。
関節の外れる音が、静寂の路地に木霊した。
女の悲鳴は響かない。
即座に男の手で口が塞がれていた。
恐怖で瞬き一つも上手く出来ない女の瞳に、男は優しく唇を落とす。
恋人を宥めるかのようなその行為は、何も見えない女にとってしてみれば、恐怖以外の何者でもない。
瞳に落とした唇を、だんだんと下降させて下へ下へと滑らせていく。
鼻を通り頬を通り、首筋へと持っていく。
カタカタと震える女の振動が、唇から男へと伝わり何だか心地が良い。
ニヤリと男は不敵に笑う。