不安に溺れて-1
『ゴメン由里子―――俺、どうかしてた…』
そう言いながら、差し出した俺の右手を―――由里子は、無言でピシャっと払いのけた!!
拒絶………か?!
その時、かろうじて由里子の存在によって支えられていた俺の心が―――折れた!!
俺はしばらく言葉を失い、包帯に滲んだ赤い血を、茫然と見つめながらこう言った…
『―――そうかっ。それが―――お前の出した…答えなんだな………』
俺はそれだけ口にするのが精一杯だった…
由里子の顔を見ることもなく、俺はふらつく足取りで病室をあとにした。
俺がこの病室を訪れることは、この先2度となかった。
♯♯♯
―――由里子の病室で、散々なやり取りをしたあと、俺はふらついた足取りで、どうにか自分のアパートまで辿りついた。
その時、ドアの前に見慣れた人影があった。
同じ高校で3年生を受け持つ数学教師、幸田みなみだ。
年は俺の3つ下で、偶然にも同じ大学の後輩にあたる。
髪はショートカットで、どちらかと言えばボーイッシュなタイプ。
陽に焼けて健康的で、好奇心旺盛な瞳が、印象的な女性だった。
校外の数学研修などに一緒に参加するうちに、俺にしては珍しく打ち解け、話をするようになった。
気楽な独身同士ということもあり、お互い残業で遅くなった日などは、帰りがけにメシを食いに行くこともある。