佐々の苦悩-6
『―――それとも、もうキスぐらいされたか?』
「―――やめてってば!!」
由里子と2人だけの病室を、重苦しい空気が包んだ。
由里子には、由里子自身が気付いていない、男の本能を激しく掻き立てる何かがある…
俺はだいぶ前から、それを感じていた…
決して正当化される訳もないことだが…
由里子の義父が、娘である由里子を犯したように―――
―――俺だって手順を踏まず、半ば衝動的に由里子の唇を奪ってしまった…
それが若い神木であれば―――?
なおさら、その思いも強いのではないか?
それを考えると―――今後、神木が感じるであろう刹那から、俺はどうやって由里子を守ればいいのか?
―――分からないまま、不安ばかりが膨らんでいく。
『俺―――しばらくここに来るのやめるわ!』
「―――先生がそうしたいなら―――」
『―――そうしたい訳じゃねぇよ!何でお前には分かんねぇんだよ!!』
俺はそう怒鳴った瞬間…無意識のうちに、両手の拳を強く握りしめていた。
その時、まだ治りきらない左手の傷口が開いた…
血が滲み出し、白い包帯をジワジワと赤く染めていった。