佐々の苦悩-4
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病院のベッドの上で、意識が戻ったとき、私の目の前には、泣き腫らした赤い目のママがいた。
ママは涙を流しながら私を強く抱きしめ、『由里子ごめんね…』と何度も謝っていたけど、私には何のことかさっぱり分からなかった。
その時、私の頭の中は、パパに無理矢理体を奪われたことが、記憶から無くなっていたから…
ううん…それよりも前のこと―――パパとママが再婚した頃のことも、そっくりそのまま、私の頭の中から消えてしまっていた。
そんな私に慌てたママは、すぐに主治医の先生を連れて戻ってきた。
主治医の先生は、私にいくつかの簡単な質問をした。
そして、くわしいことはこれからの検査で分かっていくと思うが、今の時点で言えることは―――
『過去の思い出したくない記憶を、君の脳が引き出しの奥にしまっている状態…』と言った。
その証拠に、体に受けたひどい傷の割りには、心の中には、痛みも哀しみも感じなかった。
そして、主治医の先生はこう続けた―――『しかし、その記憶を完全に君の脳から消し去ることは、不可能なんだ!おそらく、何かの形で現れる過去の記憶達と、今後君は向かい合っていくことになるだろう』と…
私は、今までに受けた心の中の、痛みや哀しみと引き替えに、とてつもなく大きな何かを背負ったのかもしれない―――と、この時思った。
入院以来、ママや看護士さん、そしてもちろん佐々先生も…私に優しくしてくれる。
けれど、事情を知る人達は、私に対してどこか同情的な視線を向けているような気がしてしまう。
被害妄想―――?!
本当は、そんなこと無いのかも知れないけど…
特に佐々先生と会う時が辛い…