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「瓦礫のジェネレーション」
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「瓦礫のジェネレーション」-18

男が差し出した名刺には、
『(株)塩飽コーポレーション 社長室長 市丸良平』
とあった。この地方に住む者で、塩飽コーポレーションを知らない者はいない。不動産デベロッパーから遊戯場、飲食業と手広く事業を展開している会社であり、社長は地元の名士として政界ともつながりが深いが、一方では裏社会との黒いつながりも噂されている。そこの社長室長が『社長のお嬢さん』と言ったということは……。駅員たちの間に緊張が走った。
「身元ならば私が保証します。それとも、私じゃ身元引き受け人には不足ですか?」
「いえ、そんなことはありません。どうやらこちらの勘違いだったようです。失礼いたしました」
駅員たちはあわてて美咲の腕を掴んでいた手を離した。
市丸は駅員に軽く会釈してから、美咲を引き取って出口へ向かって歩き始めた。
「美咲お嬢さんが電車とは珍しいですね。大学へ行かれるんですか?」
やや皮肉っぽい言い方がカンに障ったが、窮地から救ってくれたのだから文句も言えない。美咲は父の片腕であるこの男があまり好きではなかったのだが、とりあえずここはおとなしくしておいた方がよさそうだ。
「ちょっとね。それとお嬢さんっていうのは止めてよ。美咲でいいわ。それより市丸さんこそどうしてここへ?」
「お客様をお送りしたところですよ。9時の特急に乗られるとかで。これから少し時間あるんで、学校までお送りしましょうか?まずはその前に盗難届けを出さないといけませんが」
「後でいいわ、どうせたいした物は入ってないから」
あまり好きではない市丸に借りを作ってしまったことが不愉快だった美咲は、イライラを隠そうともせずに言った。なんとか借りを帳消しにする方法はないものか……美咲の頭はフル回転した。
(この男はたしか、私に好意を持っていた筈。悪いけどそれを利用させてもらおうかな)
駐車場で市丸の車に乗り込む。エンジンを始動させると、市丸は含みのある声で話し始めた。
「そういえば、最近ちょっと悪さがすぎるようですね、美咲さん。今のところ社長の耳には入れないようにしてますが、何ごとも度を越さないようにしませんと」
「わかってるわよ。それより、電話貸して。携帯もバッグの中だったから」
市丸の返事も聞かずに、美咲はダッシュボードから市丸の携帯を取り出して番号をプッシュする。
「あ、もしもし、父さん?美咲です。今偶然市丸さんに会ったところなんだけど、ちょっとお借りしますね」
相手に返事をする間も与えずに電話を切った美咲に、市丸が苦笑する。
「……困った人だ。それより、よく社長の居場所がわかりましたね」
「市丸さんが『少し時間がある』ってことは、どうせ愛人のところでしょ?それより、ゴタゴタして学校に行く気力が萎えちゃったから、ちょっと気晴らしにつきあってくれない?」


海沿いの道を車が走っている。平日の午前中とあって交通量はさほど多くなく、車は快適にスピードをあげている。
「その様子だと朝食はまだでしょう? 何か食べたいものはありますか? この先においしい店を知ってるんですけどね」
市丸は笑いながら言った。

市丸良平には焦りがあった。若くして塩飽コーポレーションの社長の片腕としてその手腕が認められた実力者であり、社長である塩飽誠も、ゆくゆくは市丸を美咲に婿養子として迎え会社を継がせるつもりの筈だった。しかし最近、その雲行きが怪しくなってきたのだ。
中央政界とのパイプを強くしたいという思惑から、塩飽社長は輿石代議士との関係を深めようとしている。輿石代議士の公設第一秘書である長男の岳士と美咲との見合いの話が密かにもちあがりつつある。もちろん美咲はまだ大学生であり、早くても卒業してからということになるのだろうが、であるとしても仮に縁談がまとまってしまえば、市丸の将来はせいぜいが専務止まりだ。
とはいえ、塩飽社長は娘には極端に甘い。仕事で忙しくほとんど構ってやれなかった負い目から、美咲のわがままはほぼ無条件に聞き入れているのだ。お世辞にもほめられたものではない素行についても、美咲本人がひとこと否定しただけで完全に信じ切っている。もし美咲が自分にベタ惚れでもして、どうしても結婚したいと言い張ったならば、社長もそれを拒否はしないだろう……。となれば社長の椅子はともかく、塩飽家の膨大な財産を我がものとすることが可能になる。
悪ぶっていても子娘ひとり、自分にかかれば虜にしてしまうのも容易なことだ、市丸はそう考えていた。


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