絶望からの生還-4
『彼女が俺を望む限り、俺は由里子のそばにいようと思います』
―――そう答えていた。
響子はそれ以上何も言わず、微笑んで頷くと『姫が淋しがるから戻りましょ…』と席を立った。
とてもチャーミングな女性だ―――と、俺はその時思った。
♯♯♯
病室に戻ると、由里子はまだ静かに寝息を立てていた。
響子はベッドの脇の椅子を俺に勧め、『ちょっと出てくるわ…先生と話せてよかった』と言い残し部屋を出ていった。
ベッドの上の由里子は、血の滲む、唇の青あざこそ痛々しかったが、顔色は良く、早くも回復の兆しが見られた。
包帯が巻かれた手首をそっと持ち上げ、指を絡めると温かい由里子の体温が俺に伝わってきた。
「せんせい…なの?」
由里子が目を閉じたまま、かすかにそう聞いた。
『あぁ由里子…俺だよ!』
俺はそう言って、由里子の手の甲に唇をあてた。
「先生…私―――生きてていいのかな?」
由里子が静かにそう聞いた…
『あぁ…俺と一緒に生きていくんだろ?!』
由里子は俺の言葉に静かに頷き、閉じたままの瞳からは大粒の涙がこぼれた。
俺はこぼれた由里子の涙を、そっと拭ってやった。
あの日教室で起きたこと
―9ヵ月の軌跡― D
「絶望からの生還」―完―