狂気の朝-6
ハッ…!!
由里子の足の付け根辺りのシーツに、点々と飛び散った鮮血の跡を見つけると、俺は思わず顔を背けた。
それは由里子の“初めて”が、無残にも義父によって奪われた証―――
『由里子…辛かったな…』
俺は意識のない由里子にそう囁きながら、ベッドに縛られた両腕の紐を解き、赤く擦り切れ、血の滲む手首の皮膚に触れないよう、そっと腕を下に降ろした。
そして、蒸し暑い部屋の中だと言うのに、冷えきってしまっている由里子の体を、床に落ちていた毛布で包み抱いた。
俺は由里子を抱きながら、無意識のうちに自分の拳を床に打ち付けた。
クソッ―――っ!
クソッ――――っ!!
クソッ―――――っ!!!
拳の痛みが消え、感覚がなくなったあとも、俺は何度も何度も…床を殴り続けた。
由里子に一番近い存在の俺が、由里子を守れなかった。
今、俺の腕の中にいるボロボロの由里子が、一番俺を必要としている時、俺は助けてやれなかった。
―――俺はこいつに誓ったんじゃないのか?
どんなことがあっても由里子を守る!…と。
つい昨日誓ったその言葉が、今日この瞬間にも破られた―――
俺は自分のふがいなさとやりきれなさに涙が込み上げ、由里子を抱きながら声を上げて泣いた。
俺の熱い涙が由里子の冷たい頬に落ち、由里子の頬を濡らしていく…