ハロウィン-5
翌日、僕はいてもたってもいられず、大学の講義を抜け出して昼前には喫茶店を訪れた。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか」
「はい」
「…早かったですね」
「ずっと気付かなくてごめん、加奈子ちゃん」
「……っ」
彼女、加奈子ちゃんはその瞬間、手に持っていたお盆を床に落としてしまった。
「ご注文は何にいたしましょう」
「ブレンドコーヒーで」
「かしこまりました」
彼女の正体。
彼女、加奈子ちゃんは小学校の同級生だった。
なんで今まで忘れていたのだろう。
こんな大事なことを。
そんな自分が昨夜から腹立たしかった。
あんなに大事な二人の思い出を。
僕の生まれ育った地域では、ハロウィンの日にはご近所さんがお菓子を用意してくれていて、子どもが一軒一軒、お菓子をもらいに行くという小さなイベントがあった。
もちろん、子どもだった僕はハロウィンを楽しみにしていたのだけど、そんな日に泣いている子がいた。
加奈子ちゃんだった。
加奈子ちゃんは、お母さんと二人暮らしで、言い方は悪いけど貧しい家庭の子だった。
それを知っていたクラスのいじめっ子が、加奈子ちゃんをいじめていた。
貧乏人だから、こんな日にしかお菓子を食べれないだろう。
お菓子をたくさんもらうために今日は町内一周するつもりなんだろう。
加奈子ちゃんは放課後も教室で泣いていた。
僕はそれを見て、加奈子ちゃんの手を引いて一緒にお菓子をもらいに回ったんだ。
加奈子ちゃんはすぐに笑ってくれた。
二人でトリックオアトリート!って何度も叫んだんだ。