ハロウィン-3
一週間が経過した頃、僕は喫茶店に足を運んだ。
久しぶりに彼女の顔を見た。
普段と何一つ変わらない。
「いらっしゃいませ、お一人様ですか」
「はい」
そこであることに気が付いた。
いつもの席に先客がいた。
高校生のカップルだ。
なんだかいちゃついていて腹立たしい。
僕は片思いで、こんなにどうしようもない男なのに。神様は厳しい。
なんという八つ当たりと責任転嫁だ。
「……ごめんなさいね」
彼女はそう言って謝ってきた。
「いや、謝らないでください」
別にそこを予約しているわけでもなければ、そこに特別思い入れがあるわけではない。
ただ、この店に通い初めてからあの席に先客がいたことがなかっただけだ。
僕は窓際の席に座り、いつものようにブレンドコーヒーを注文した。
窓から外を覗く。
「……あ」
向かいの雑貨屋は、ハロウィンのディスプレイを大々的に行っていた。
大きなカボチャのお化けのぬいぐるみに魔女をモチーフとしたようなスタンド。
「…そうか、明日はハロウィンだ」
「はい、明日はハロウィンです」
彼女がコーヒーを持って立っていた。
「どうも」
「こちらこそ、いつもありがとうございます」
そういえば、先週この店に訪れたとき、彼女とハロウィンの話をしたな。
「…小さい頃、お菓子をもらって回ったんですか?」
初めて僕から彼女に話を投げかけた気がする。
「…はい、お友達と近所のお家を回って」
そういえば、僕も小さい頃はそんなことをやっていた気がする。
「…へぇ」
「…よろしければ、明日、またお店に来ていただけませんか?」
「…え?」
突然だった。
彼女からこの店に来るように言われるなんて。
「私は明日一日いますから、お時間があれば」
彼女はいつもと変わらぬにこやかな表情だ。
「はあ…じゃあ夕方来れたら来ます」
「…ありがとうございます」
意図はつかめないが、何となく何かがありそうな気がした。
彼女はその後、仕事に戻ったため、僕はいつものように読書を始めた。
この本も、もうそろそろ終わりだ。