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ハロウィン
【片思い 恋愛小説】

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ハロウィン-2

「コーヒー、おかわりどうですか」
「おわっ」

彼女が目の前に立っていた。

すっかり読書に集中していて、全く気配に気が付かなかった。
情けない声をあげた僕だったけど、すぐに冷静を保って、彼女の顔を見上げて言った。
「じゃあ、お願いします」
「ありがとうございます」

この喫茶店はおかわり自由ではない。

いつも長時間居座るくせにコーヒー一杯で帰る僕を見かねて声をかけたのか。

すぐに彼女は二杯目のブレンドコーヒーを持ってやってきた。

非常に気まずい。

「…ありがと」
小さな声で、彼女の顔を見ずに言った。


「いつも、本を読んでますね」

なぜか彼女から話を振ってきた。

「……あ、え」
僕は動揺を隠せなかった。

なんせ半年通って、彼女との会話は今まで入店と注文と会計だけなのだ。


「…10月31日って何の日か知ってますか?」
彼女は唐突にそう切り出した。
僕にはわけがわからない。
「えっと…あなたの誕生日ですか?」
すると彼女はくすりと笑った。
「違います、私の誕生日は5月18日です」
「あ…そうですか」
名前も知らないのに先に誕生日を知ってしまった。
「ハロウィンです」
彼女は笑ってそう言った。
「…あぁ、ハロウィン」
そういえば、そんな行事があった。すごくマイナーだけど。

それにしても、なぜ彼女は唐突にそんな話を僕に振るのだろうか。
たまたま今は客が僕以外いないから暇なのだろうか。
「私、ハロウィンが大好きなんです」
「…はぁ」
ハロウィンが好きだなんてすごく珍しいな。
「小さい頃のことなんですけど、ハロウィンには思い出があるんです」
「…そうですか」
「トリックオアトリートって知ってますか?」
「…たしか、お菓子をくれないといたずらするぞ、でしたっけ」
「よく覚えてますね」
「……はぁ」

よくわけがわからないまま話が終わってしまった。


何にせよ、これで仲良くなれたかと言えばそうではない。


違和感がとれぬまま、僕はさっさと二杯目のコーヒーを飲み干して店を出た。


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