……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-50
「……か、帰りましょう。なんか……なんか……」
――すごく嫌だから!
言葉には出来ない気持ち。顔中が熱く、嫌な汗がシャツに染み、卑猥な粘液がシク
リと股間に滲む。
今まで気持ちを誤魔化し、流されるまま情愛を求めた彼の抱く気持ちは嫌悪。
見ないようにしていたのに、似つかわしくないのに、井口の行動が後悔にた気持ち
をフィードバックさせる。
――俺は身勝手だ……けど! けど……。
「帰りましょう……」
そういいながらも紀夫は手を握り締め、動けずにいた。
指に食い込む爪は皮膚に食い込むだけで破ることはしない。
キリキリと歯を食いしばり、渇く目を瞬きさせずにアスファルトを見つめること数
秒。
「うん……いいよ。私も帰ろうって思ってたから……」
空気を読むというよりは、彼女もきっと紀夫と同じことを感じていたのかもしれな
い。
返事もせずに歩き出す紀夫とそれについて歩く久恵。
二人の間にはおかしな連帯感と言いがかり的な怒りがある。
それが、妙な安心をくれた……。
なのに……。
先を急ぐ紀夫の耳に聞こえてきたのはドサリという音ところころと転がる音。振り
向くと彼女がヒールの低い靴と転がる棒を見つめているのが見えた。
「ゴメン、歩けないや……」
「大丈夫ですか? 先輩……」
同じ気持ち、お互いに同情できる状況で、紀夫は彼女に手を差し伸べる。
「ありがとう。でも、動けそうに無いよ……」
「そうですか……」
もう一つのヒールは折れていない。けれどそれだけ。
「ねえ、休憩……しない?」
安易な誘いとささくれたつ心。そして乱暴な同情は……?
**――**
初めて入るその建物は普通の建物と違い受付などがおらず、券売機のようなディス
プレイにサービス内容が提示されていた。
休憩料金二五〇〇円、お泊り四〇〇〇円。
休憩というのが何時間なのか分からない紀夫は選択を躊躇してしまう。
けれど久恵は気にすること無く高い方を選ぶ。
それはつまり……。
ピンク一色に染まっていると思った部屋は意外にも質素なベージュ色。床は少し前
まで畳だったのか入り口が一段低く、入るとダブルベッドがあるだけの簡素なつくり
だった。
二人で一泊するのであればビジネスホテルよりも安いのだが、妙に低い天井に圧迫
されるような錯覚を醸されてしまう。
とりあえず置いてみた程度の姿見に映るぼうっとした自分がなんとも間抜けに見え
た。