……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-23
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バス亭を降りてもすぐに施設があるわけではない。施設に行くことじたいがトレー
ニングの一環らしく、アップダウンのある坂道を乗り越え、ようやくたどり着いた頃
には域も絶え絶えになっていた。
玄関では見慣れたジャージに身を包む女子がおしゃべりをしていたが、紀夫に気が
ついたのか、ショートカットの一人が走るわけでもなく、それでも急いでやってく
る。
「紀夫が来たの? てっきり平山先生だと思ったんだけど……」
驚いた様子の里美は彼から荷物を受け取る。
「だって、キャプテンいないし、なのに、顧問までいなかったら……大変でしょ?」
半分本当で半分はイジワル。
「そうかな? 先生いても意味ないと思うよ?」
「そんなこと言わないでよ……」
「まあいいや、で? どうやって君帰るの? バス無いのに」
「タクシー呼ぶよ」
「ふーん。それじゃあ電話借りないとね」
里美は施設に来るよう促すが、紀夫はキョトンとしてしまう。
「え? 携帯で呼ぶよ」
出かける前に近隣のタクシー会社はチェックしてある。バスのある場所まで出られ
れば問題ないのだ。
「無理。ここ電波悪いから」
しかし里美の続く言葉はそれを一瞬で打ち砕く。
「嘘?」
急いで携帯を取り出すと赤く圏外の文字。
「ここ、本当に日本?」
「自信ない」
里美の冗談めいた一言に紀夫は肩を落とした。
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「紀夫が来たんだ」
綾は心なしか弾んだ声と手を振って出迎えてくれる。
「皆と仲良くやってるみたいだね、綾さん」
「ああ、まあな」
この前の一件で打ち解けるようになったのは綾にとっても紀夫にとっても大きな前進。
「あらあら、彼女に会いたくてこんな辺鄙な場所まできたの?」
里美と一緒にいるのを面白そうに見つめるのは紅葉。
「やめてください。彼女なんて……あたし別に……」
そそくさと隣を外れる里美に後ろ髪を引かれる気がするも、これ以上紅葉にえさを
あげてはいけないと我慢する紀夫。
「えっと、ゼッケンに部員名簿、住所っと……えと、君勝手にみてないよね?」
荷物を受け取った美奈子は確認ついでに釘を刺す。