……タイッ!? 第四話「暴きタイッ!?」-13
――よし、行くぞ!
自転車に跨り、ペダルを踏む。温い風が頬を撫でたら、そのままうらびれた路地を
抜けるだけ……。
――あれ?
道を行くさなか、ふと見えた男女のグループ。
一人の女子が小瓶を掲げているが、そのセミロングは見覚えがある。
――キャプテン? 久恵先輩?
急ブレーキを利かせるとハンドルが横に流れる。そのままではショーウインドウに
ぶつかると、あえて身体を横にして転ばせる。減速のおかげで制御もできた。つま先
一センチが削れてしまうも、たかが学校指定の通用靴。惜しくはない。
「うわ、派手にこけたな」
「はは、だっさ……」
後で男達の笑い声が聞こえる。
紀夫は少し腹立たしくなりながら立ち上がり、男女のグループの中から例の彼女を
探す。
「なんかこっちみてるんですけど……」
茶色に染めた髪、ねじれたように巻き上げる髪はどういう構造なのか分からない
が、重そうな頭をした女がつまらなそうに喋る。
「……」
知らない女に用は無い。もし見間違えならそれはそれでよい。けれど……、
「久恵!」
どうして名前で呼んだのかは分からない。ただ、そのほうが都合が良かった気がし
たから。
「なにアイツ、アンタの知り合い?」
重そうな頭の女が路地裏を見る。すると男達も路地裏を空けるように動き、面白そ
うに成り行きを見る。
部活の間の赤いジャージではなく、ジーパンと腰周りにヒラヒラしたスカートのよ
うなもの、上は黒のノースリーブ、ブラの肩紐が見えているが、本人は直す素振りも
ない。
眼鏡は外しており、髪も三つ編みではない。
が、久恵であるのは確か。
彼女が嫌そうに自分に視線を返したのが理由。
「何してるのさ、帰ろうよ」
彼女は促されるもヒールの高い靴では歩きにくいらしく、腕組みをしながら動こう
としない。
「なんで帰らないといけないのよ。馬鹿じゃない」
反応はしてくれる。なら脈はある。だがなんて言えばよいのだろう? 下手に出れ
ばたたき出されるだろう。隣の大学生らしき男達には逆立ちしても敵いそうに無いの
だし。
「えと……、パパとママが心配してるよ! おねえちゃん、早く帰ろうよ!」
「パパとママ?」
一瞬の静寂のあと、夕立に匹敵するほどの哂い声が路地裏に響いた。