恋の予感-1
それは6月のことだった。
「俺、やっぱお前のこと好きだわ。もう我慢出来そうにないから言っとく」
放課後の教室で先生は私にこう言った。
その時教室には私と先生の2人きり、先生の放った言葉は場の空気をがらりと変えるものだった。
ここが学校だと言うことも、先生と私が教師と生徒の関係だと言うことも、そしてさらに言うなら年が10才も離れていると言うことも、どうでもいいことのように思えた。
実際この時の先生は、まるでそんなこと気にしてないみたいだった。
そんな風に半ば投げやりにも見えるような方法で私に胸の内を吐露した先生は、そう言ったあと静かに私を見つめた。
私も先生を見つめ返す。
不思議なことに、私は先生のそんな告白を聞いても動揺しなかった。
それどころか先生の言葉はまるで前からこうなることが決まっていたかのように、私の胸の中の大事なもの達が収まる場所にすとんと収まってしまった。
「私も好きだよ、先生のこと」
私は気付くと先生に向かってそう言葉を返していた。
まさかそんな大胆で恥ずかしいことを自分がさらりと言うなんて思いもせずに。
でも実際、私は確かにそう口にしていた。
「じゃあ、俺達は両思いってことだ」
先生はそう言って少し照れたように笑った。
目を細めさらに口元を綻ばせると、先生の白く粒の揃った歯が、薄くて形のよい唇から覗く。
目の前の先生は普段生徒達の前では見せない顔をしていた。
そんな先生の笑顔を独り占め出来たことが、私は誇らしかった。
先生は私の担任だということを加味した上で多少辛口に評価しても、整ったいい顔をしていると思う。
4月の印象ではもっとドライな人かと思っていたけど、どうやらそれは私の思い違いみたいだった。
その証拠にいつも先生の周りを誰かしら女子が取り巻いている。
それにサッカー部の顧問をしている関係上、先生は男子からも一目置かれていた。
よく陽に灼けていて背が高い分細く見えるが、そのくせ身体全体にほどよい筋肉を纏っている先生はとても健康そうだった。
とても健康そうに見えるかっこいい大人の男の人。
私から見ると先生はそんな人だった。