恋の予感-2
だから先生のひんやりした唇が私の唇を掠めた時もびっくりはしたけれど抵抗はしなかった。
両手の指を交互に絡ませてきた先生がそれを静かに教室のうしろの壁に押し付ける。
そうされて自然と私の背中がぴったり壁に付いた時、私は自分から目を閉じていた。
その瞬間、今度は本当のキスが降ってきた。
私の唇は息苦しいくらい隙間なく先生に埋め尽くされ、そして満たされた。
キスは初めてじゃない。
前に付き合った人と何度かしたことがある。
でも先生のキスはその人のキスとは全然違った。
いったい私が今までしてきたキスは何だったんだろう?
そんな疑問が浮かんだ。
でもそう思ったのはほんの一瞬で、そのあと私は先生とのキスに夢中になった。
唇と同じく冷たい舌は私の中で次第に温められ、もう途中からは絡み合う舌がどちらのものなのかさえわからなくなった。
そして隅々まで私の中を探索し終えた先生が私の中から出て行くと、ふいに私は哀しくなった。
「そんな顔するなよ、止まらなくなるだろ」
先生はドキドキするほど色っぽい声でそう言って私を見つめた。
そんな顔っていったいどんな顔だろう?
まさか私は先生に物欲しそうな顔をしてしまったんだろうか?
その時不意に耳の奥の方で父の声が聞こえた気がした。
そしてそれと同時に私の意識は遠のき、ここがどこなのかわからなくなった。
「しっかりしろよ、なぁ美咲」
何度か名前を呼ばれるうちにすぅっと自分が戻ってくる。
名前を呼んでいるのは先生で、私は先生の腕に抱かれていた。
先生の腕は私が思った以上にがっちりしていて私を安心させた。
「大丈夫か?」
先生は心配そうにそう言って私を見つめると、顔に掛かった髪を払ってくれる。
「うん大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから」
私はそう言って笑い、先生の腕から抜け出した。
「そうか」
そう言って私を再び見つめた先生はどこか腑に落ちない顔をしていた。
実際にはびっくりしたのではなく、父から受けている虐待のフラッシュバックだった。