Lesson xxx U G-1
神崎を送ったその足で彩の家を訪ねた。
俺自身は彩が誰と寝ようと関係ないと思ってる。
だけど神崎が彩を気にしているから。
彩のためというよりは神崎のためだった。
インターホンを押すとチェーン越しにドアを開け、俺を見上げて目を見開いた。
「ちょっといいか?」
返事こそしなかったがチェーンを外しドアを大きく開いた。
「何?」
疲れた顔を隠そうともせず気だるげに前髪をかき上げる。
「俺はもう彩の処へ戻る事はない」
「そんな事をまたわざわざ言いに来たの?」
表情を歪め吐き捨てるように言う彩は俺の全く知らない女のようだった。
「もう俺に囚われるな」
「え?」
「本当はわかってんだろ?俺達が元に戻る事なんてないって」
彩は唇をキュッと引き結び黙って俺を見ていた。
「お前はただ囚われてるだけだ」
静かにもう一度繰り返すと彩の瞳から涙が伝った。
「……わかってたの…?」
「そりゃ彩の事だからな」
現実を受け容れがたかったんだろ?
俺達が別れたのはどっちにも非があって、だけど彩は自分の非ばかり責めた。
俺を憎んで恨めれば前に進めたかもしれない。
だけど思い出に囚われて俺を恋うた。
彩が想う俺は俺であって俺じゃない。
とっくに気づいてたはずなのに認めたくなくて、心を満たすためにいろんな男と…。
苦笑する俺に彩は泣き笑いの表情を浮かべた。
「本当に征也は変わったんだね…」
「変わったんだとしても、俺は今の俺を結構気に入ってる」
「あの子のせい?」
「おかげ、だろ」
俺の言葉に彩は大きくため息をついた。
「……バカ征也」
「お前もバカだろ?……もうあんな事するな。ちゃんとしたヤツ見つけろ」
「……征也のあの子みたいに?」
頷く代わりに軽く彩の額を弾いて玄関を出た。
彩に気持ちがないと言ってもやっぱり情みたいなのはある。
別れた女に幸せになってほしいと思うのは、今の自分が満たされている傲慢さがそう思わせるんだろうか。
それでもやっぱり幸せになってほしいと思わずにはいられない。
こんな俺を神崎はどう思うんだろう。