優しい人-4
「それともう一つ言っとくよ。さっきお前の仲間にも言われたんだけど、僕がお前らから逃げたって?勘違いしないでほしいな…僕が引っ越したのはそんな理由じゃないよ。ただ荒れ狂う自分が怖かっただけさ。別にお前らが恐いとかじゃないよ」
嘲るような視線を、優太は容赦なく龍司にぶつける。
「生憎もうそんなこと心配してる場合じゃないし…もうヤり合おうぜ?思織を賭けて」
「沢岸…お前この俺を一撃て倒せる程の力を付けたとか言うなよ?」
「まさか…そんなの有るわけ無いよ…」
二人の闘気…もはやこれは殺気とも呼べるか…それを感じ、思織は全身から冷汗が湧き出るのを感じた。
(こ、恐い!!)
そう感じた瞬間、思織の右腕は解放されていた。
ドスッ
鈍い音と共に、龍司の右フックが優太の腹に決まっていた。
「けっ、こんだけか?」
龍司は一歩後ろに下がる。
「甘いんだよ、お前は」
それと同時に優太も前進し、龍司の頬に右のストレートパンチを叩き込む。
「くっ?!」
龍司は体勢を崩すが、優太はそれを気にしない。
「まだ終わらないよ…」
左フックで腹を、続け様に右のローキックで脇腹を攻める。そこからは龍司に反撃の機会を与えず、連続で攻め続けた。
何も考えず、優太はただひたすらに殴り続けていた。
「…めて…た……うた」
「…?」
「…優太、止めて!」
優太は誰かに呼ばれて我に還った。
「優太…もう止めようよ…」
「思織…」
気付くと自分に思織が泣き付いてしがみついていて、傍には龍司がうずくまっている。
「思織…ありがとう。僕を止めてくれて」
「優太〜…」
大粒の涙をこぼしながら、優太に泣き付く思織。優太もそれを優しく抱きしめた。
「野郎…もう一発…」
ちょうど優太の後ろでは、龍司がしぶとく起き上がろうとしていた。だが優太もそれに気付いている。
「大丈夫だよ思織…僕は君のおかげでもう冷静になれたから…だからね」
優太はそっと思織から離れる。
「あと一撃で終わらすから待っててね」
「ふぇっ?」
思織は思わず変な声を上げてしまった。
それに構わず、優太は一歩後ろへ下がると左回りで振り返る。その勢いを利用して、竜司の側頭部に蹴りを放った。
「っ?!」
ドゴッ
龍司の体は宙を舞った。
倒れた龍司の耳元で、優太は思織に聞こえないように囁いた。
「次に僕らの前に顔を出したら、容赦無く殺す…かもよ?」
龍司に反応は無いが、優太は思織のもとへ戻りそして優しくこう言った。
「帰ろう」
と。