「僕らのゆくえ 4(千比絽)」-1
2枚目のデッサンを描き終えたところで、伸びをした。
―そろそろ、帰るか。
放課後の美術室には、部員がまだちらほらと残っていた。
暗い窓の外を眺めれば、まだ雨は止まず、降り続いている。
あ。
傘―。
そういえば持って来なかった。
生憎、折り畳みも家へ置いてきている。
―仕方ない。
濡れることを覚悟する。
「お先に」
お疲れと、口々に返されながら、美術室を出た。
扉を出て廊下に出ると、すぐ横の壁際にライトグリーンの傘が立て掛けてあるのが目についた。
時子の傘だ。
まるでそれは、部活帰りの俺を待っていて、使って下さいと言わんばかりで。
―何だろうなあ。もう。
何故こんなに、俺の気持ちを押さえられなくなることばかりするのだろう。
時子は、今も昔も俺の気持ちをぎゅっと掴んで放さないのだ。
いくら俺の態度がかわろうとも、時子はずっと幼い頃の時子のままだ。
―それはつまり、「姉」としてということだが。
その鮮やかなグリーンの傘は、時子そのもののようで。
身体の奥の部分が、ぽっと熱を帯びたようにじんわりと温かくなった。
時子は濡れて帰ったのだろうか。
雨模様の憂鬱さも消えて、俺は少し浮き足立って歩く。
グリーンの傘を広げて―。