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侍BOYS!!〜一番ヶ瀬高校剣道部
【スポーツ その他小説】

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侍BOYS!!〜一番ヶ瀬高校剣道部〜No.2-1

笹岡武蔵は、ポカポカと陽気が暖かな川原で途方に暮れていた。

その川原はいかにも金八先生に出てくるような川原で、昼過ぎの太陽の輝きを反射させてキラキラと光る水面の素朴さがまた、笹岡の喪失感を大きなものにした。

喪失感の始まりは、約6時間程前に遡る。

《笹岡武蔵》と言えば、剣道をしている者達の間ではそこそこ名の通った有名な存在だ。
4年連続で生徒を全国大会へと導いた、中学剣道の名コーチとして雑誌やテレビに出た事もある程。
その地位は不動の物と思われたが、ここ2、3年は全国大会は疎か地区大会すら良い成績を残せないでいた。
それに爆発したのは、保護者だった。
あの時は全国に行ったくせに、何故家の子の時は行けないの、と。
義務教育と言うのは保護者ありきで成り立っている訳で、保護者の意見を学校側は無下には出来ない。
即ち、いくら笹岡が長年学校の為に頑張ろうとも、保護者が辞めさせろと言ったのならば、学校側はその意見を通せざるをえない訳で。

電話を受け取ったのが、約6時間程前の事。

10年近くも学校や生徒の為にコーチをしていたにも関わらず、電話の内容は淡々と進み、あっさりと通話は切られた。
『今までどうもありがとうございました』や『お疲れ様でした』みたいな言葉を掛けてくれてもいいものを、と、笹岡は通話の切れた携帯電話を見つめながら思った。

そして、今に至る。

職を失った訳ではない。
仕事は別にやっているから、辞めてどうなるという事はないのだが。

『剣道』を失った喪失感とでも言おうか。

また他の学校でコーチをすれば良いことなのはわかっていても、今まであの学校で精一杯を尽くしていた自分の10年は何だったのだろうかと、答えのない自問が浮かんでは胸の奥に突き刺さってチクチク痛む。


「剣道…か…」

「剣道?お前さん、剣道をするのかい?」


無意識に口から飛び出した言葉に、まさかの反応が返ってきた。
ふと右隣を見れば、ワイシャツとスラックスを身に纏い、杖を携えた頭皮の若干後退したご老人が、しわしわの顔をもっとしわくちゃにして笑っていた。


「あ…はぁ…、一応…」

「わしも剣道やっておってのう…、高校生に教えておるんじゃ」


老人は杖を抱えて笹岡の隣にどっかりと腰を据えた。


「しかしのぅ…、わしも御覧の通りこんなじゃろう?指南役もそろそろ潮時なんじゃないかと思っとるんだが、お前さんはどう思う?」

「はぁ…」


初対面の老人に、突然今後の事を相談されても返答に困る。
只でさえ今は自分の今後も定かでないのに。


「生涯現役とは言ったが、やはり年には勝てないのぅ…」


ぽんぽんと右の拳で自分の腰を叩きながら、老人は懐かしむような目で川を見つめた。
まるで、水面に自分の若かりし頃の思い出でも写っているかのように。


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