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ラプンツェルブルー
【少年/少女 恋愛小説】

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ラプンツェルブルー 第6話-3

「付き合ってくれてありがとう」
冬の午後はあっという間に暮れなずみ、僕らの足元から伸びた影はずいぶん長くなっていた。

「……あんな風に笑えるんだな」

ビストロで二手に別れた後、どちらからともなく足を運んだ公園は、どこかひっそりとしている。

「悪趣味よね?デートに妹同伴なんて。こっちは目一杯気を遣うっていうのに」
僕の言葉の意味合いを察し、苦く笑いながら空を仰ぐ彼女。

うっかり透けて見えてしまった『想い』に僕はそれ以上言葉を重ねられず、ただ冬の公園の落ち葉を踏みしめる音を聞いていた。

「ここなの」
「え?」

顔を上げた時には、彼女の姿のほとんどが生垣に飲み込まれていた。
「おい!」
留める声も虚しく、彼女は姿を消してしまう。
僕はといえば、あいにくシロウサギを追うアリスのように無邪気でもこどもでもなく。
躊躇われたものの、ため息一つ。
前後の人の気配を確認してから、僕も生垣に身を投げたのだった。


当たり前だが、生垣の向こうは異世界などではなく、『ケヤキ』や『ヒマラヤスギ』と名札を付けた樹木が高々と枝を広げて伸び、冴えざえとした冬空をのぞかせている。
風にそよぐ葉擦れの音のせいで、あの夢の森にいるかのような錯覚を起こしそうだ。

「これって……」
僕らの足元には、木々からのぞく空に向き合うように、ぽっかりと口を開ける深淵。すぐ側に深淵の内容物であったであろう土塊がうずたかく積まれていた。

「私が掘ったの」
「一人で?」
そうよ。と誇らしげに頷く彼女がショベルでざっくざっくと穴を掘る姿を想像してみた。
……想像図に激しい砂嵐。
「これって見つかったらヤバイんじゃないのか?」
「だから見つかりにくい場所を選んだんだけど」

確かにここに大きな穴があるとは誰も思わないだろう。
「俺がばらしたらどうすんの?」
ほんの少しのイタズラ心。
金茶色の睫毛を揺らして彼女は僕を見上げた。
「ここに連れて来てもいいかどうかは見極めてるつもりだけど?」

不覚だった。
心拍が一瞬大きく跳ねた。
「へ、へぇ。随分信用されてるんだな」
「余計な事は言わない。必要な事も現実を見極めてから言うタイプ……でしょう?」
再び跳ねる心拍。
うーむ。やはり夢の中のかの人とは一線を画するようだ。

「……で、どうすんの?これ」
うろたえる様をさとられたくなくて、出来るだけさりげなく尋ねる声は、やや掠れ気味。舌打ちしてしまいそうになる。

「埋めるの」

再び想像してみたが、土を盛り、自重を利用して小山を均す満足そうな彼女の姿なんて、僕の想像力ではとうてい及ばない。
…というより、随分と『彼女』の印象を覆されてしまっている。

「何を埋めるかはまだ決めてないんだけど」

想像をフル活用させてクラクラしてきた意識は、暢気な声で現実に引き戻された。

「その時は呼べよ。手伝いくらいにはなるだろ」
幾度目かのお節介。
彼女に関して、どうやら僕は『懲りないヤツ』らしい。

しかしそれは指摘されることなく、返ってきた『ありがとう』とふんわりと浮かべた笑顔に、僕の心拍は微かに、だがたしかに、乱されるのだった。


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