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「僕らのゆくえ」
【幼馴染 恋愛小説】

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「僕らのゆくえ 3(時子)」-2




晩秋だというのに、その日は午後から激しい雨が降った。

人気のなくなった放課後の廊下を歩く。
窓の外は暗く、しとしとと雨音がとめどなく聞こえてくる。


図書室に寄ったら遅くなってしまった。

千比絽はまだ、美術室で部活中だろう。
向かいの校舎を眺めると、4階の端っこの美術室は案の定、淡い光を放っていた。


―そういえば。
千比絽は傘を持って行かなかったはずだ。

午前中の早い時間は曇りで、弟の随分後に家を出た私は、玄関に千比絽の紺色の傘があったのを覚えている。


雨は途切れることなく、線を描いており、止む気配もない。

―まるで私の心境を表しているようで、少し憂鬱になる。

誘蛾灯に誘われるように、対岸の光が洩れている一室を見つめる。

千比絽が気付くはずはないのに。

「出てこい」なんて、念じてみる。




出てきて、千比絽。


私の前で、私の眼をみて笑って欲しい。


昔みたいに、屈託なく「時子ちゃん」って呼んでよ。



窓の外の溢れる光に向かって、私は半ば本気で、そう念じた。


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