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カウントダウン
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カウントダウン-5



 卒業式の夜は二人きりで会いたいって可愛らしくおねだりしたら、鼻の先を摘まれてふごって変な声が出た。

「卒業式の夜くらいみんなと弾けてこい」って、先生が笑いをかみ殺しながら言うから、素直に卒業式後のクラスの集まりに参加した。とりあえず先生には鳩尾に一発喰らわせたけど。




 はぁー

 吐いた息は白く、風に流れて闇に溶けていく。

 クラスの集まりを途中で抜け出して、あたしがいるのは冷え冷えとした無機質な玄関の扉の前だった。

 クリーム色したアパートの一室の前。何度も訪れた此処は、先生の部屋だ。

 時計の針を確認する。日付が変わる五分前。あたしはそれを確認すると、呼び鈴を押した。

 ピンポーンって音が響いて、それから足音がして、扉越しでも先生の気配が近づくのがわかった。
「あたし」ってポツリ呟くと、開かれた扉から出てきたのは驚いた顔をした先生。
 少し襟ぐりがよれたトレーナーに、自宅用のふちなし眼鏡。如何にも休みモードの格好をした先生に、悪戯が成功した気分になった。

「何やってんだ、こんな時間に」

 焦ってるような、呆れてるような口調に返事をしようにも、鼻がツンとして、喋れなかった。きっと今鏡を見たら、鼻先が赤くなって鼻水も出そうだし、あたし凄く不細工かも。


「温かいもの作るから、早く中入れ」

 先生の言葉に、あたしは首を横に振った。その反応に先生の顔が曇っていく。

「どうした?」

「……心配しないで。ちょっと待ってて」

 今度はちゃんと答えながら、時計に視線を落とす。先生が誕生日にくれたアンティーク調のねじ巻き時計。指輪が欲しいと言ったら、指輪はプロポーズの時にやるよって返されて赤面したっけ。

 あたしがそんなことを考えている間にも、時計の針は、淡々と時を刻み続けている。

 カチリ、カチリ
 カチリ、カチリ

 23時59分55秒

 ごー、よん、さん、にぃ、いち

 カチリ

「じょーじ」

 日付が変わると同時、あたしは大好きな人の名前を呼ぶ。

「あたし昨日までは生徒だったけど、今日からは違うから」

 視界が滲んで、譲治の輪郭がぼやける。頬に温かいものが伝い落ちてくる。そこで初めて自分が泣いてることに気がついた。
 泣くなんて、余計にガキっぽいって思われるかな。それでも涙は止まらなかった。


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