「僕らのゆくえ 2(千比絽)」-1
姉が掴んだ袖にそっと触れ、誰にも聞こえないようにため息をついた。
顔を合わせるのでさえ、躊躇するのに、一緒になんて行けるはずがない―。
時子が、飛行機事故で両親を一度に失って、うちに来たのは5歳のときだった。
ショートカットがよく似合う、大人しい子だった。
両親は留守がちで、兄弟はいなかったし、「時子ちゃん」は毎日会える友達のようで嬉しかった。
だけど。
いつからだろう。
この気持ちを持て余すようになったのは。
高くない、心地好いトーンの声を聞く度、彫刻のように涼やかな横顔を眺める度、心がざわついた。
最近では瞳を合わせただけで、自分の思いが溢れてしまいそうで、恐い。
それでいて、姉が他の男と話しているだけで、苛々する自分がいる。
そんな日は一層そっけなく時子に接してしまうのだ。
時子のそばにいたい―。
だけどそれは、家族としてではなく。
そんな矛盾した思いを抱えて、弟を演じていく自信がなかった。
温めても苦しいだけで、何の益にもならない思いなら、捨ててしまいたいと思う。
―簡単に捨てられるものならば。