黒魔術師の恋愛事情〜麻里-3
「相談ならいくらでも乗るよ?」
「…何でも?」
「当たり前だろ?恋人の悩みはちゃんと聞かないとさ」
「あっ…」
真彦が麻里の頭を撫でる。その手は優しさを直接麻里に伝えるような温かさを持っていた。
「真彦君…」
「ん?えっ…」
自分でも無意識の内に、麻里は真彦に抱きついていた。
「…行かないで…」
「へ?俺はどこにも行く予定無いぞ?」
「私を捨てないで!お願い!」
他の女のところに行ってほしくない。夢のような状況になってほしくない。自分だけを見ていてほしい。その一心だった。
「…はぁ?麻里、本当どうしたんだよ?誰がお前を捨てるって?」
真彦はというと、まだ麻里が何で悩んでいるかわかっていないようだ。
「だって…海堂さんからラブレター貰ったんでしょ?」
「あぁ、まぁ確かに…けどあれは、俺宛じゃあ無かったぞ?」
「?…どういうこと?」
「いやだからさ。あれは『光輝宛』に書かれた手紙で、俺は光輝の代わりに『受け取った』だけだよ。ちゃんと光輝に渡したし」
「じゃあ、海堂さん関係で呼ばれたのは…」
「あれは彼女の元彼がストーカーみたいなことしてるから、なんとかならないかって相談だよ。昨日学校休んでまでその男撃退してきたんだぜ?ったく、迷惑な話だよ」
やれやれといった表情で真彦は語る。
「第一、俺宛の手紙だったとしても断ってるって。俺ヤバイくらいに麻里に惚れてるもん」
真彦は麻里の背中に両腕を回し、麻里の身体を優しく包み込んだ。
「真彦君…」
「麻里といると、何か癒されるんだよな…。自分が黒魔術師だってことを忘れられるくらい、麻里といると気持ちいいんだ。俺だって離れたくないのは同じだよ」
「…うん」
麻里はより強く真彦に抱きつき、真彦も麻里を離すまいと抱きしめる。
「ずっと傍にいるよ。麻里、大好きだ」
「私も…大好きだよ…」
嬉し過ぎて、麻里は自然と涙声になってしまう。気を許したら大声で泣いてしまいそうだった。
「嫉妬しすぎて……おかしくなりそうだった…。私だけを…見ていて欲しいよ……」
「不安にさせたみたいだな…もう心配しなくていいよ。…そうだ、そんなに心配なら学校でも俺のことを名前で呼べばいいよ」
「名前で?」
「そうだよ。俺達が付き合ってるって、皆に見せ付けてやれ。もう隠すのは辞めだ」
「…どうして?」
「俺と麻里が付き合ってるって皆が知ったら言い寄ってくる奴もいなくなるだろ?黒魔術師ってのを隠すより付き合ってることを隠す方が辛いもんな」
真彦は優しくそう言った。麻里を安心させるために。しかし真彦は大事なことを忘れていた。
「ねぇ、黒魔術師って何?真彦君って魔法使いだよね?」
麻里は真彦から身体を離して尋ねた。
「あ゛…」
真彦は場の空気に呑まれ、隠していたはずの麻里に自分が『黒魔術師』であることをうっかり話してしまっていた。
「黒魔術ってあれ?相手を燃やしたり凍らせたり雷落としたり爆発起こしたりするやつ」
「それはゲームの中の話だろ?はぁ〜…しょうがないか」
真彦は諦めたのか、麻里に真相を話し出した。
「黒魔術ってのは、呪いや呪術、悪魔の儀式とかそんなやつだよ。魂の生贄とかもそれさ。俺が前に召喚したムーンだって、あんな形だけど悪魔だし。それに、麻里が初めて家に来る前は、部屋は黒魔術道具でいっぱいだったし…」
「…何で言ってくれなかったの?」
「嫌われたくなかったから、かな?黒魔術にいいイメージは無いでしょ?だから誰にも知られないようにしてたんだ。知ってるのは光輝と、妹の小春だけさ。学校でも目立たないようにして、黒魔術師って感付かれないようにして。伊達眼鏡までしたのに…」
「もしかしてだからなの?私と付き合ってることを隠してたのは」
「そうだよ。…ねぇ、お願いがあるんだ。俺が黒魔術師だってことを考えた上で付き合ってくれるならでいいんだけど…皆には俺が黒魔術師だってこと、黙っててくれるかな?」
「知られたらどうなるか分かんないもんね…。うん、分かった!皆には内緒ね!」
麻里は笑顔で真彦にそう告げた。
「俺と…別れないでいてくれるのか?」
真彦の声は小さく、不安さを含んでいた。
「だって…真彦君は真彦君だもん。私の大好きで、大切な…皆に誇れる恋人だもん!」
「麻里…ありがとう」
真彦は再び麻里を抱きしめた。二度と離すまいと誓って…。