「僕らのゆくえ 1(時子)」-1
近頃、私と弟の間には壁がある―。
透明で触れられないのに、その実、とても重くて厚い壁。
私は何とかしてその壁を取り払おうとするのだけど、その横から千比絽が容赦なく積み上げる。
堂々巡りのように膠着した最近の私たち―。
*
いつもの朝。
千比絽が2階の自室から出てきたと思ったら、家族が揃っているダイニングをスルーして玄関へ向かった。
「いってきます」
弟の無機質な声を聞いて、私は納豆ご飯を一気に掻き込んだ。
「待って!一緒いこう」
千比絽の学ランの袖をはっしと掴む。
まだリスのように両頬に朝食が残っていたので、発した言葉は不明瞭なことこの上なかった。
それでも千比絽には伝わったらしく、私を冷ややかに一瞥した後で言ったのだ。
「俺、朝練あるから」
姉の手をそっと振り放すと、千比絽はとっとと出て行った。
―ここで、彼が美術部ということを追記しておこう。
「・・・美術部の朝練てなんやねーんっ!!」
私は思わず、関西弁で叫んでいた。
私と千比絽は同じ中学に通う、同級生。
同じ歳の少しも似ていない、姉弟―。