「僕らのゆくえ 1(時子)」-2
*
3限目、千比絽のいる7組は体育のようだった。
私は世界史の授業を聞き流し、ぼんやりと窓からジャージの集団を見下ろしていた。
―あ。
千比絽をみつける。
傍らには、つやつやしたボブカットの女の子がいて、千比絽と楽しそうに話している。
ふうん。
・・・そうか。
他の女の子の前では、あんなに楽しそうに笑うのか。
千比絽の切れ長の瞳は強くて、少し近寄り難い。
けれど一度、笑顔になると印象は全く異なる。
そんな、千比絽のことを一番知っているのは自分のはずだったのに。
最近は、もうほとんど私には向けられなくなった弟の顔をぼんやりと眺めている。
遠くから。
いつからこうなったのだろう。
昔は―。
私がこの家に来たときは、千比絽は一番の理解者であり庇護者だった。
3ヶ月だけ私が先に生まれていたことに気付くと、
「時子ちゃん」
そう呼んでは、ちょろちょろと私の後を付いてまわったものだ。
きっと「姉」である私に配慮してのことだった。
何れにせよ、この家に馴染めたのも、周囲に溶け込めたのも全て千比絽のお陰だった。
いつか、離れることになるのは分かっている。
弟は、そう遠くない日、さっきの子のような可愛らしい女の子を連れてくるのだろう。
分かっている。
だけど、その時が来るまで私は千比絽のそばにいたい。
この気持ちが何なのか。
家族愛なのか、それとももっと違った、少し厄介な感情なのだろうか―。
私は分からないでいた。