LAST DAY-9
【LAST DAY】
-4-
「間違えてしまったってこと?」
「そう」
遼太郎が隣に座ってボクの顔をのぞき込んできた。ボクは小さく頷いてみせる。
学校の帰り道、ボクと遼太郎は並んで歩いていく。ボクも遼太郎も家に帰りたくなくて、でも、帰らなくちゃいけないから。ゆっくり、ゆっくり。家に向かって歩いていた。
遼太郎は、好きだ。優しい。それに、同じにおいがする。お父さんに殴られているせいだという体のあざを、でもちっとも気にしないみたいに笑う。その笑顔の向こうで、すごくすごく傷ついているのがわかる。わかってしまう。そうやってわかってしまうのは、同じ、だからだと思う。
「母さんはボクが嫌いだったんだ。頭も悪いし、なんにもうまくできない『さくら』が嫌いだった。だからボクはよく叩かれたし、家にいれてもらえないこともあったよ。……あの日、山に行った時ね、崖に花をとりにいったのはもみじだったんだ」
遼太郎は何にも言わずに、ただじっとボクの顔を見ながら話を聞いてくれる。
「そのときにこけて、もみじは足をケガしちゃったんだ。母さんはすごく怒った。もみじに取りに行かせた『さくら』のせいだ、って。それで、ボクを突き落とそうとした。それをもみじがかばった。それで、もみじが、落ちた」
双子の兄の、もみじのことを思い出す。優しい兄。ボクと同じ顔をして、でもボクよりも優しく笑った。ボクが母さんに優しくされないことをすごく気にしていた。苦しんでいた。
ああ、そうか、遼太郎は似ている。もみじに似てるんだ。
「それから、母さんはボクを叩かなくなった。だってボクがもみじになったから。さくらは死んだんだって母さんは言った。そうしたいんだろうなってわかった。母さんは殺すべき子供を間違えたんだ。でもそれが嫌だったから、なかったことになった。ボクは、さくらって呼んでもらえなくなった……」
それでもいいって思った。母さんが泣かないなら、それでもいいって。でもそれは、本当は、母さんの為なんかじゃなくて、ボクのためだったんだ。叩かれるのが嫌だから。もみじを利用して、幸せになろうとしたのかもしれない。
でも、そんなこと、できるわけなかったんだ。
「そっかあ……」
「うん」
「……じゃあさ、僕は、さくらって呼んでもいい?」
「え?」
驚いて顔を見返したボクに、遼太郎はにっこり笑った。