LAST DAY-7
「怖くて、ずっとできなかった。大嫌いで、でも、誰よりも大好きだから。悲しませたくなかった。でも辛かった。ボクを見て欲しかった。『もみじ』じゃなくて、ボクを」
ゆらゆら、ゆらゆら。
「でも今日が最後だから。最後の日だから。だから、ボク、決めたんだ」
「なにを……?」
「殺すんだ」
ぽつり、落ちた冷たい言葉。
「……もみじ、どうしたの。何があったの?もしかして、誰かにいじめられたり、してるの?だったらお母さんに相談して、ねえ、お母さんもみじの力に……」
「ボクは『もみじ』じゃない」
可愛い小さな私の息子は、
「『さくら』だよ、お母さん」
とても、優しい子だから。
「……もみじ……そう、まだ、苦しんでたのね」
どうして気づいてあげられなかったのだろう。この子はまだ自分を責めていたのだ。自分のかわりに死んだ、双子の妹のことを。
ちょうど一年ほど前だろうか、娘のさくらは死んだ。家族で山にいったときだった。私たちが目を離している間に崖から落ちてしまったのだ。もみじは自分のせいだと言って酷く落ち込んだ。さくらと二人で、私にくれるための花を摘もうとしていたのだ。さくらは自分が行くと言い張ったという。あの子もまた、とてもとても優しい子だったから。でも、でも、もみじのせいで死んだわけでは決してないのだ。
「大丈夫、大丈夫よ。さくらはね、もみじのせいで死んだんじゃないの。あの子は神さまに選ばれてしまったの、優しい子だったから。だから、今は天国でもみじのことを守って……」
「違うよ、お母さん」
「もみじ」
「違う、違うよ、ボクはもみじじゃない。ねえ、どうして……さくらだよ、ボクは、さくらだ。死んだのがもみじだよ。お母さんは知ってるでしょう?ボク……わたし、さくらだよ。お母さんが大嫌いなあなたの娘。出来損ないで、いつもいつも怒られてばかりだった、さくら。もみじじゃない!!」
違う、あなたはもみじ。
さくらはあの日、崖から落ちて……
「そうだね、さくらは死んだ。でも崖から落ちたんじゃない。お母さんが、私をさくらって呼んでくれなくなったから。さくらは死んでもみじになった。……私、ずっと、ずっと辛かった。お母さんが私を見てくれないのが悲しかった。でも言えなかった。お母さんはさくらが嫌いだから。もみじに生きててほしがってたから。だから言えなかった。だけど、やっと、やっと……」