LAST DAY-6
【LAST DAY】
-3-
つま先で跳ねるような、とすとすと軽い足音。私はそれについ口元が緩むのを感じながら、いけないいけない、と顔をきゅっと整えた。
「もーみーじ!」
「わあ!母さん、外にいたの」
「そうよ。もみじ、あなたは?学校はどうしたの」
「……今日は、お休み」
「また勝手に。もう、仕方のない子ね」
怒るふりをして眉をあげてみせたら、もみじは反対にしょんぼりと眉をさげて、ごめんなさい、と小さく呟いた。本当に申し訳なさそうにこの子に謝られると、どうしてもそれ以上厳しくすることができない。これじゃあ母親としてダメだ、とは思っているのだけれど、正直に言います。私はこの子が可愛くて可愛くて仕方がないのだ。可愛い私の息子。たった一人の私の子供。
「ねえ、母さん」
「なあに」
「あのね……」
何か言いたいことがあるのだろう、もじもじとしながらこちらを伺ってくる。それは言いにくいことがあるときのこの子の仕草。優しい子だから、母親の私にまでどこか遠慮をしているのは気づいてる。だから私はなるべく優しく、
「大丈夫、怒らないから、言ってごらん?」
もみじは私を見て、もう一度俯いて、小さく深呼吸をして、そして、顔を上げる。その目は何かを決意したように強い光を持っていた。いつの間にこんな目をするようになったのだろう。私は胸の内側、どこか寒気のようなものを感じる。
もみじは小さく口を開くと、
「あのね……明日、終わるんだ」
「え……」
「明日で世界が終わるんだ。今日が、ボクらの最後の日なんだよ」
「そうなの?」
「……うん。だから、ボクは、ずっとできなかったことを、やり遂げなくちゃいけないんだ」
そう言って、酷く悲しそうに、不安そうに、その目がゆらゆら揺れている。