LAST DAY-12
【LAST DAY】
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「あ、お兄さん、こんにちは」
「ああ……きみか、こんにちは」
家に戻る道の途中で、よく道端で会うお兄さんに会った。訪問販売のお仕事をしているんだというこのお兄さんは、でも、よく公園でこっそり煙草をすっているのだ。私が学校から帰って、でも家に帰れないときに公園へ行くと、このお兄さんに会うことが多い。「こっそり仲間」だ。ということで、ちょっと仲が良い。
「どうしたんだい、こんな時間に……学校は?」
「えっと……忘れ物、したの。家に。だから取りに行くところなの」
それはウソ。ほんとは、お兄ちゃんを追いかけていく。
学校へ向かう道の途中でお兄ちゃんが忘れ物をしたから家に戻る、と言い出した。私もついて行くと言ったのに、遅刻しちゃダメだってお兄ちゃんは一人で行ってしまった。だから、私はちゃんと学校へ向かったのだ。でも、だって、お兄ちゃん、変だったから。結局校門の前で引き返してきてしまった。学校をサボったのなんて、はじめてだ。
「あのさ……もしも今日が最後だとしたら、きみはどうする?」
「え?」
とつぜん、どうしたんだろ。
「いきなり変なこと言ってごめんな。いや、さっき俺が尋ねられてさ……明日で世界が終わるかもしんないのに、なんで我慢してるんだ、って言われて……」
「ふうん」
「きみなら、どうする?今まで、未来を考えて我慢してきたことが、全部ムダになっちゃうかもしれないんだ」
明日で世界が終わるとしたら。
今日が最後の日だとしたら。
私がお父さんに叩かれるのを我慢していたことが、ムダになる?
「……私、そうは思わないなあ」
「え?」
「私はね、我慢してるんじゃないの。あのね、嫌なこと、私もあるよ。やりたくないのにやらされてることもある。でも、いつかのために我慢してるんじゃないの」
よくないよ。痛いのは嫌い。辛いのも苦しいのもイヤ。お兄ちゃんが怒ってるとこみたくない。お兄ちゃんが私の傷を見て泣くのも、すっごく悲しい。お兄ちゃんを悲しませたくない、だけど。