Lesson xxxU F-1
鍵が開く音がして、私は玄関まで出迎えに行った。
「お帰り」
「ああ…」
先生も今日は疲れたようだけど私を見て笑顔を作った。
ソファーに体を投げ出して上着とネクタイを取った先生の向かいの床に私は座った。
「今日は…悪かったな…」
少しの笑みとたくさんの後悔を顔に浮かべて私に謝った。
「先生は悪くないでしょ?」
「さぁ…な…。俺にはわかんねーよ」
こんなにへコんでる先生は初めて見た。
いつも自信家で意地悪で、でも私を優しく包んでくれる先生が今日はすごく弱々しくて…。
私は思わず先生を抱きしめた。
「神崎…?」
「先生が辛い時は私が先生を守る。まだ…頼りないかもしれないけど私の全力で先生を守るよ」
そう、守るって決めた。
私のこの想いも先生も。
「…少し…このままでいてくれるか?」
私の腕の中の先生の表情は見えないけど、もしかしたら少し泣いてるのかもしれない。
先生の色んな感情が落ち着くまで、ずっとこうしてようって思った。
先生と南方先生との間には私の知らない時間があって、それが今こんなに先生を打ちのめしてるのかもしれない。
私はただただ先生を抱きしめた。
「…神崎。ありがとうな」
時間にしたら30分ほどだろうか。
先生が顔を上げた。
その顔に疲れはまだ見えていたけど、さっきまでの落ち込んだ様子は鳴りを潜めていた。
この短時間に先生は色んな気持ちを整理したんだろう。
「ううん」
先生が私によくしてくれるように先生の髪をそっと撫でた。
「何か俺カッコ悪くねーか?」
照れたような恥ずかしがってるような複雑な顔をして先生が呟く。
「全然」
私は出来るだけ明るい笑顔で答えた。
「神崎がいて…よかったよ…」
神妙に言う先生はらしくない。
でもこれも私の好きな先生の一部なんだ。
「先生が必要なら私はずっとそばにいるから」
私がそんな事を言うなんて思っていなかったのか先生は目を丸くした後、不敵に笑った。
「…いい覚悟だな。絶対離さないから覚えとけ」
「そっちこそ。その言葉忘れないでよね」
お互いに顔を見合わせて声を立てて笑った。