イライラ風船-1
『あぁ…イライラする。』
スズキは学校帰りの道で、舌打ちをした。
『なんで僕の周りは、こうもイライラする奴らばかりなんだ。』
分かりきった単純なことを繰り返し言う怠慢な教師。
明日のことなんて何も考えていないクラスメイト。
ロボットのように動く店員。
動作の遅い電子機器。
電車通学。
人混み。
視線。
言葉。
…全てが神経を逆撫でする。
スズキが腹立たしさに息を吐き出して家の扉を開け、自室のドアを乱暴に開けると---見覚えのない人間がこちらを向いて座っていた。
『お帰りなさい、スズキさん。』
ごく自然に呼び掛けるその声は高くも低くもなく、その容姿を見た限りでは果たして若いのか年老いているのか、それどころか、女なのか男なのかすら分からなかった。
『なんだ、誰だよお前。どうやってここに入った。』
一応聞いてはみたが、スズキは目の前にいる人物に対して、なぜだかそれほど不信感を抱いていなかった。
その心を知っているかのようにその人物は優しく微笑み、スズキの質問に答えた。
『私が誰であるかはあなたが決めることです。私はここに入ったわけではなく、ただ、ここにいるんです。』
スズキはその言葉に首を傾げる。
『あんた、名前は?』
『私に名前はありませんよ。そうですね、ヤマダとでも呼んで下さい。』
『はあ?』
わけのわからないことを言う奴。
スズキが苛立って舌打ちをすると、ヤマダは深く息を吸った。
すると、スズキの心は少しだけ穏やかになった。
『…?』
『私は、あなたの話を聞き、あなたの苛立ちを無くす為にここにいるんですよ。』
ヤマダは、全てを悟ったような瞳でスズキを見る。
『勝手にしろ。』
スズキは吐き捨てるように言ったが、悪くない、と思った。
…利用出来るものは、全て利用するだけだ。