生まれたての愛を-2
―――そこには確かに赤ん坊がいた。
それからしばらく、私はただ呆然と立ち尽くしているだけだった。
一等強い風が髪を舞い散らして、そこで意識が浮上する。上手く回らない頭で今ここにある事実を整理しながらも、同時にあってはならないと思った。
穢れをしらない無垢な瞳。弱々しく小さな手足。泣き響く声は、生の証。それは無条件に愛される存在。
そんな赤ん坊が、深夜のしかも無人の公園の隅にいるなんて、あってはならないことなのに。周りには人のいる気配も、いた気配もなかった。今この寂れた公園には、私と赤ん坊しかいない。
置き去り、放置。
ニュースで聞き慣れた単語が、頭の中を巡る。
可哀想に。
ニュースを見る度に、そんな感想を持っていた。テレビ越しにニュースキャスターが悲痛な面持ちで語る言葉は、まるで空想の世界の出来事のようだったのに。今、私の目の前にあるのは間違いなく現実なのだ。
硬直した体を叱責しながら動かして、恐る恐る赤ん坊の頬に手を近づける。
触れるか触れないかの距離で、不意にまた赤ん坊が小さな泣き声を上げた。それだけで、指が石膏のように硬直してしまう。
息を整えながら、もう一度手を近づけてみる。今度はちゃんと触れることが出来た。
冷たい。
それが最初に思ったことだ。柔らかいでも、温かいでもなく、ただ悲しくなるくらい冷えていた。
赤ん坊の肌はすっかり温もりを失っていた。頬を刺すような冷たい風が、容赦なく体温を奪っていたのだろう。
昼間は暑くなる時もあるが、季節上は秋だ。晩の気候はこのいとけない体には辛すぎる。
小さな体を腕に抱える。
割れ物に触れるような、ぎこちない抱き方。
赤ん坊を抱いたのは数カ月前、友人の子供を抱いた以来になる。上手く抱けている自信は皆無だけれど、それでもこのままベンチに置かれたままよりはよっぽどいい筈だ。
くるまれていた薄布と毛布ごと抱きかかえた体は、想像よりも遥かに軽い。
けれどそれを支える私の腕には大層な重さがのしかかった気がした。だからといって、決して下ろしてはいけない。これは紛れもなく命の重みなのだ。
うっすらと灯る街灯の下、掌に収まりそうな位小さな顔を見つめる。性別もわからない。テレビで見る生まれたての赤ん坊よりも大きかったけれど、それでも生まれてそんなに経っていないのは明白だった。
泣く体力も残っていないのか、私の体温に安心したのか、赤ん坊は泣くことをやめている。後者であれば嬉しかった。こんなに拙い抱き方でも、赤ん坊が安心してくれるならいつまでも抱いていたかった。
そこでようやく、自分のすべきことを思い出す。
赤ん坊を揺らさないようにしながら鞄の中から携帯電話を取り出し、救急車とそこから警察へ。
驚くほど冷静にやり取りが出来たのは、肌寒い気温の中、赤ん坊の体から少しずつ温もりが戻っていくのを感じ取れたからかもしれない。