侍BOYS!!〜一番ヶ瀬高校剣道部〜No.1-3
「…誰もいねーのか?」
シンと静まり返っている道場内。
こうして道場に立っていると、3年前までの記憶が鮮やかに蘇り、身体が沸々と熱くなる。
―宮川ァ!!ヘバってんなコラ!!声出せ声ェ!!
脳裏に過るのは、鬼の形相をしたコーチの顔と怒声。
―なんだその足使いは!!踏み込みが甘ェんだよてめェは!!
普段は温厚で空気の読めないコーチだったが、稽古となるとその性格は豹変。鬼のように怒声を飛ばす獣へと変貌するのである。
―ハァ、ハァ…うあああぁ!
面がねの間から見える獣と化したコーチに、気合いと共に飛び掛かる。
大きく振りかぶったせいでがら空きになった胴へと、コーチの竹刀が弧を描いて引き寄せられていった。
スパァン…
「誰かいるのか?」
「え?」
記憶の打撃音と何かの音が重なる。
どうやら道場内入り口の扉を思い切り良く開け放った音らしい。
思い出にひたっていた柊へ、突然現実から声がした。
ハッとして振り返れば、黒の革製の竹刀袋を肩に担いだ男が1人、道場前に立っている。
「何お前、ここで何してんの?」
「えっ!?あっ、いやっ、俺はその…」
男は怪訝そうに細めた目で柊を睨む。
上から下までじっくりと見つめられれば、特に悪い事はしていないのにも関わらず、背中から大量の冷や汗が流れる。
「…あっ!」
「あ?」
「もしかしてお前、入部希望の新入生…とか?」
「あ…」
怪訝そうな顔から一変、男の顔はパァッと明るくなった。
それを見て柊も、疑惑の目を避けられた事にホッと胸を撫で下ろす…が。
「…な訳ないっか…」
柊が『はい』と肯定の返事を発しようとした時、それを遮るかのように男は深い溜め息を吐き出した。